The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-26
No.9 「eternalseparation」
「前線にいるアランに、やや右翼に陣を寄せるよう伝えろ。
左翼とお前らの間に敵をおびき出させる、とな。」
「おい、誰か、遊撃ギルドを二個隊左翼へ配置させ、左翼もやや左に展開させろ。」
一人の伝令が雪の降る戦場を疾走する。
そしてまた新たに一人駆け出した。
風はない。
しかし空から押し寄せる雪は、戦闘開始前とは打って変わり強さを増している。
伝令からヴァルキリーの意図を聞いたアランは陣をやや右に移動させ、ルアーノ隊を孤立させる。
そしてアランもまた、片膝を雪の上につき、口から白い息を吐き出している伝令に言う。
「アルフォンスさんに、右翼前面と右面の広範囲に火力を集中させるよう伝えてくれ。」
「レクサスいるか!?」
アランのレクサスを探す声を聞く前に、伝令は既に飛び出していた。
代わりにレクサスがアランに駆け寄る。
その時目の前の積雪が轟音と共に雪煙を舞い上がらせ四散する。
レクサスは飛び散った雪の塊から視界は守ろうと、左腕で顔を守る。
そして彼が左腕を自分の視界から外した時、
炎属性魔法ファイアーバードが舞う雪を飲み込みながら彼目掛けてやってきた。
なんの躊躇もなく、レクサスの前方に飛び出したアランはそれを黒銀の盾で防ぐ。
彼の全身に纏う補助呪文と盾により、火の鳥は徐々に小さくなって消え失せた。
アランの身に纏っていた雪たちと共に。
「レクサス、左翼を孤立させ、狙わせる。
こっちの前面にはアイサとピノ他複数のやつを回してくれ。
左側面に火力を集中させるんだ。
後はお前に任せるよ。」
「わかった、任せな。」
レクサスはそう言い、安心しながら彼に背を向ける。
しかし一人のアーチャーがレクサスの背後を狙っていた。
その男はアランを過小評価していたため、男の目にはレクサスの姿しか映っていない。
男は戦士の剣戟など、かわすことができる自信があり、
保護魔法もかかっていることがさらなる過信を生んでいる。
ただ、男の横に迫る剣士は並の相手ではなかったことで、最期という終焉が男に下された。
男はレクサスにたどり着く前に事切れる。
片手剣最強の攻撃力と命中率を誇るアランの持つ剣から繰り出される、
保護魔法の効果を無視する技、ライトニングショックで。
レクサスのアランに向ける背は、敵にそうなることを意味させていた。
ジャイファン軍の左翼が徐々に孤立し始めるのを、黙って二人のバイサス戦士とシーフは見ている。
「なんかジャイファンに動きがあるわね。」
「陽動だろう。ついて来いノヴァ、左前方の敵を潰す。」
「リザルトには逆らえないからなぁ。」
ある紅い序曲が始まろうとしている。
ジャイファン軍、ヴァルキリーやシュリにすらそれは聞こえてはいない。
弱い風が吹き始め、雪は吹雪になりつつあった。
「またお前か。」
目掛けて来る男の眉間に一本の矢を打ち抜かせて言った。
男の足は前方の宙に投げ出され、同時に頭から地面へと落ちた。
自分の死を認識することもできなかった亡骸が、空を見上げて寝ている。
「邪魔したらあんた殺すから。」
「…なんか嫌な女ね。」
「お互い様。」
ストリームブリンガーと左翼の間に生まれた空間へ敵が押し寄せ始めている。
それをそっと本営前で見守る三人。
見慣れたストリームブリンガーの面々が、補助をもらうために三人の横を過ぎる。
正面のストリームブリンガーの左側面部隊は、うまく互角の戦闘を演じ、
敵の行動をヴァルキリーの思惑通りに促している。
左翼では戦士やアーチャーが中央に大勢のシーフを匿まいながら防戦している。
遊撃ギルドの援護が功を奏し、被害を最小限に食い止めながら。
シーフ達は機を窺いながら、いまかいまかと心待ちにしていた。