The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-22
No.8 「beforethewar」
「まずは先日の局地戦ご苦労であった。」
シュリを見やりマルトースはそう言い、
彼女はマルトースに向かって敬意の念を込め軽く会釈して返す。
「しかしそれの後だ、この雪原戦は厳しいものになる。
ルアーノ、イルスの動きはどうだ?」
「五分五分といったところだ。
イルスのやつらもやはりこの情勢下ではバイサス優勢だと思う者の方が多かった。
それでもやれるだけのことはやった。あとは俺達次第だと思う。」
「わかった。」
マルトースは彼の正面に掲げられている赤い蠍の旗をしばらく見つめる。
「では、左翼にルアーノギルド、右翼にアルフォンスギルド、
正面にはストリームブリンガーを配置する。
三部隊それぞれの後方に拠点を設ける。シュリ、人選は任せる。
ヴァルキリー、お前がストリームブリンガー後方の拠点、言うなれば軍の中央で指揮を取れ。
シュリはヴァルキリーの片腕として頼む。
本来は軍の後方に本営を置くべきだが、そう人を避けられないからな。
戦闘も覚悟してもらうが、お前なら問題なかろう。
アランがストリームブリンガーを率いろ。
その他のギルドの配置はヴァルキリーに任せる。
それと城門前にどこかのギルドを配置させろ。
ここまでで何か意見はあるか?」
マルトースは一望し、一呼吸する。
「敵も明日の戦の重要性がわかっているはずだ、今夜は大した動きはないと思う。
それでもこの隙にやられては、本末転倒だ。
面倒を掛けてすまないが、アルフォンス、シュリ、引き続きレナス外部の守備頼むぞ。
明日の陣営設置、物資運搬などの準備は、ほかが行え。
では、健闘を祈る。」
マルトースの予感は当っていた。
今夜のレナス外部はとても穏やかだった。
「今夜は星が綺麗だね。」
アイサが顔を上げる。
それにつられてピノも空を見上げる。
アイサはストリームブリンガー紅一点のシーフである。
それでいてルアーノには劣るが、ストリームブリンガーのシーフの中では1,2を争う腕を持つ。
一方アイサの弟ピノは若干14歳ではあるが、魔術の才能がある。
彼女達はストリームブリンガー入隊以前は、どこのギルドにも所属していなかった。
姉の方は腕試し程度で戦に参加することはあった。
その度に戦果を挙げるため、多くのギルドから勧誘を受けていた。
しかし姉として弟の心配があり、結局断り続けた。
彼女達の両親は10年前に事故で亡くし、
それ以来当時まだ10歳の彼女が母親代わりに弟を育ててきた。
彼女が最初に弟の才能を見出し、彼が14歳になったことで戦に共に参加するようになった。
そしてストリームブリンガー編成の話が舞い込んできたが、
彼女は弟を危険な目に遭わせたくは無いので当初は断った。
国王直属のギルドであり、つわものばかりが集められた組織には、必ず困難な任務が任されるからだ。
しかし、レクト王が直々に説得に来たため、彼女は折れた。
もし彼女が死ぬような事があれば、弟の生活援助をするという条件で。
その条件は彼女が死んだら、弟をストリームブリンガーから脱退させることを意味していた。
ただ、彼女は自分が死ねば、弟は彼女の敵を取るためにきっと所属し続けるだろうなとは思ったが。
それを踏まえたヴァルキリーは、事あるごとに、この姉弟に行動を共にさせている。
アイサは常に弟を守る戦闘スタイルだ。
それがアイサの、ピノを戦地に向かわせたことに対しての責任であった。
一方ピノは、そんな彼女の意図を戦闘の中で次第に理解し、
男としての誇りだろうか、逆に彼女を守るようになった。
めきめきと頭角を現し、彼女が敵と交戦する前にピノが葬り去ってしまうこともしばしばだ。
そんな姉弟の姿は、アランに共感を覚えさせた。
アランも両親がいないから。
ストリームブリンガーとして共に歩んでいくうちに、彼ら3人はすぐに打ち解け、
アランには弟ができたかのように、ピノを大切にし、ピノもアランを慕った。
そしてアイサ自身はピノを大切にしてくれるアランに対し、ほのかなある感情が芽生え始めた。