The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-21
彼が戦時下以外で人を乗せることは初めてだった。彼自身が乗ることも。
「特別だからな。」
「わかってるって。」
「シュリさんの命令に従っただけだ。」
「はいはい…。」
「でも本当に間に合って良かったよ。」
「…リーフ?」
そっと後ろを見ると、アランの腰に手を回し、彼の背中に顔をうずめ寝息を立てている、
彼女のうれしそうな横顔があった。
そよ風でふわっと舞う、月に照らされた彼女の伸ばされた緑色の髪が幻想的な美を奏でた。
「おつかれさん、おやすみ…。」
彼女の横顔にそっと呟き、彼らはゆっくり帰還した。
まるで馬が雨降りの中、城から帰る時の彼女の願いを叶えてくれているように、ゆっくりと。
白馬でもなく、王子でも姫でもない彼らではあったが。
帰還する彼らを尻目に、ヴァルキリーはシュリに打ち明ける。
ストリームブリンガー団長ではあるが、王族として紳士な言葉遣いで。
つられてシュリもより丁寧な言葉を選ぶ。
「君の親衛隊は少しは役に立ったかな?」
「えぇ、彼らのおかげでヴァルキリー様方が来るまで、戦線を維持させる事ができましたわ。」
「そうか」
シュリの表情は明るい、しかしヴァルキリーの顔はどこかぎこちない笑みを浮かべている。
「実はな、定例会議の後、
俺はストリームブリンガーの面々には君がレナス外部の陣頭指揮を執ることは、告げなかったのだ。
一部のふざけた者がこのように動くことが目に見えていたからな。
俺はそれを心配し過ぎていたのかもしれない。
今までギルドとして、彼らと行動を共にしたことの無い俺は、
彼らに国王直属ギルドとしての自分の理想を押し付けようとしていた。
しかし、アランの奴はきちんと君らギルドが配備されたことを、奴等に言った。
もちろんルアーノギルドの任も報告していたがな。
奴にしてみれば、ただありのままを報告したに過ぎないのであろうが、
今回はそれに救われてしまったな。」
シュリは黙って聞いていた。
彼女自身は、戦闘指揮を執るときは冷静な自分を演じているに過ぎない。
しかし、人の上に立つ立場として、そうせざるを得ないのである。
本来の彼女は優しく美しい女性だ。
当然女性として、愛する男がいる。
ただ戦場では、その想いは封じなければならない。
国のために指揮者として戦っているのだから。
「大丈夫ですよ。彼らにはきっとヴァルキリー様のお考えが伝わっておりますわ。
表現の仕方の違いはあるかもしれませんけど、彼らはストリームブリンガーなのですから。」
「ふっ、そうかもな…、有難う。
時間を取らせたな、済まない。マルトース様へは俺が報告しておく。」
そう言いヴァルキリーは、レナスへ向け歩を進める。
己の理想を貫こうとする男と己の理想を押し殺す女。
しかし、そこに己の理想を貫こうとする男はもういない。
理想を封じる女だけが残った。
そして女は思う。
(彼には私の想いは伝わっていない。伝えては、いけない…。)