The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-2
(俺をここまで育ててくれたのは、紛れもなく錬金術で作る薬品で生計を立ててくれた姉さんだ。
だから17歳という多感な時期でも、俺は姉貴とかではなく、『姉さん』と呼んでいる。
だが、今では俺も軍に所属しているので、給料を貰っている。
その給料だけで十分二人で生活していけるのだが、姉は錬金術から身を引こうとはしない。
元々研究好きな姉さんにとっては、それは天職なのかもしれない。
ただ、結婚しない理由はそれではないだろう。
結婚しても、錬金術師はやっていけるし。)
「準備ができたら早く行くっ!!」
いつしか考え事をしているアランの歩を進める速度は遅くなっていた。
アランは彼女にきつく促され、急いで靴を履く。
(…要するに俺のことが心配なんだろう。
17歳になっても、どこか頼りない、心配させてしまう俺が原因か。
そんなところが、姉さんの母性本能を駆り立てているのかもしれない。
ならば、逆に俺が誰かと結婚してしまえば、姉さんも安心できるだろう。)
それ以上のことを考えるのは惨めな気持ちになりアランは思考を止めた。
彼には『彼女』と呼べるものはいない。
「アラン」
ふいに彼女がアランに低い声をかける。
「自分の口元鏡で見てごらん。」
玄関の壁に掛けてある鏡を覗くと、口元に食べかすがついていた。
慌てて手の甲でぐいっとふき取りながら、アランは苦笑いするしかなかった。
「よくまぁ、そんなんで副団長なんてやってられるわ…。
あんたの部下が可哀想…。
いっそ私が団長になって、ストリームブリンガーを鍛えなおしてやりたいわ。」
ネリアは情けなくそう言うと、腰に両手をつきながら重く、はぁ〜っとため息をついた。
「じゃ、じゃぁ行って来ます!!」
彼女に心配をかけないよう、少しだけ覇気を込めて。
「気をつけていってらっしゃい。」
彼女は呆れていたが、少しだけいつもの優しい声に戻っていた。
アランはドアを開ける。
しかしさきほど起きた時に感じられた眩しい光はなかった。
夢の中の何者かの声をふと思い出す。
『なぜお前は生きている
何のために生きている』
何かが起ころうとしているのか。
そう予感させるような曇り空だった。
しかし考えてばかりいても仕方がない。
アランは心の暗雲を振り払うように、力強く城へ向かって駆け出した。
黒々とした雲が先程までの希望で満ち溢れた太陽を殺していた。
雲は全ての青空を呑み込もうとしていた。