The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-15
局地戦はまずは大草原で行われる。
大草原は3国の領土がすべて隣接する地帯であり、局地戦の主戦場である。
大草原にある自国の結界石がすべて破壊された時、他国の自国領内への侵入を許すこととなる。
大草原の自国の結界石が、敵の自国領内への侵入を防いでくれているのだ。
だが局地戦時にはレナス外部とカライル村には、それぞれの地の結界石から結界が張り巡らされる。
この結界は大草原にある結界石とは別の効果を伴う結界である。
敵味方問わず、大草原からレナス外部への往来、レナス外部からカライル村への往来の際、
対象者に掛けられている魔法は、この結界の力で全て無効化される。
また大草原からレナス外部へは遠距離攻撃はできない。
この結界の力により、攻撃もすべて無効化されてしまう。
敵は侵入してからでなければ攻撃する事はできないのである。
そのため、敵が攻めてきた場合は、レナス外部やカライルで待ち構えていたほうが、
戦局を有利に運ぶ事ができる。
よって現在の膠着状態下では、
レナス外部に軍を布陣させるのが最も被害を最小限に抑えられる有効的手段だ。
「シュリさん、配備は滞りなく完了しているぜ。
シュリさん追っかけのストリームブリンガーの連中は、こっちに配備させてもらったよ。
少数の手練のシーフが大草原を駆け巡ってるけどな。
まぁあいつらも引き際を知ってるから大丈夫だろ。」
「ありがとう、アルフォンスさん」
「じゃ、俺も前線に戻るよ、何かあったら伝令よこすからさ。」
「なら、その伝令が来ないことをここから祈ってるわね。」
シュリの微笑みを見たアルフォンスは、そうだな、と言う意味を含ませた笑みを彼女に返し、
前線へと駆け出した。
シュリ率いるギルドは、結界の張られている場所から後方で、
味方の補助拠点として待機している。
アルフォンスのギルドにも数人腕利きのプリーストがいるため、
彼女のギルドからは数人のプリーストだけを支援に向かわせている。
彼女たちが待機している拠点の守備には、彼女のギルドの各クラスの者が担当している。
シュリ自身は戦闘自体では遺憾無く己の能力を発揮させることはできないが、
彼女の戦場での全体を見渡す判断力と、そこから最善の行動を導き出す決断力は、
マルトースからも全幅の信頼を寄せられている。
そんな彼女の傍らで胸にアランと繋いだ右手を当て、うつろな瞳をしているリーフがいた。
「リーフ、どうかした?」
「あっ、やっ、いえ、なんでもないです。」
「はっはーん、なんかいい事でもあったかな?」
「な、なんでもないですってば。」
「はいはい、そうね。…ん、良かったねっ。」
ぷいっとそっぽを向けたリーフの反応と、先日までは一般的な悩みとは違う
甘い『それ』で悩んでいた彼女の顔だが、
今はただ赤くほてった表情しかないことを見つけたシュリは理解した。
シュリは景気付けに、がんばんな、と彼女の頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
彼女の緑色の髪が少しだけ自由に舞い踊る。
状況に耐えかねた赤い顔の彼女は、
乱れた髪を直しながらとてとてと前線部隊のほうへ走り出すことでシュリに対し
最大限の抵抗を示した。
(シュリさんの近くにいたら、もっと見透かされる。そしてからかわれちゃう…。)
「あらら、いいのか? あれ。」
「前線部隊に騒ぎはないから。
敵が接近してれば大草原にいるシーフが既に報告に来ていてもおかしくはないからね。
まぁ〜、ちょっとやりすぎたかなっ。」
シュリはどこからともなく聞こえた声に対してそう告げた。
ただ、いじる相手が彼女の檻から逃げ出してしまったので、暇になった彼女は小さく舌打ちした。
そこには、リーフに対して反省の色を見せずに、
彼女よりも3つ年上である一人の麗しい女性としてのシュリが立っていた。
そのシュリの瞳は、前線で補助魔法を味方にかける、シュリにはない可憐な魅力を持つリーフの姿を、
羨ましそうに映していた。
そしてもう一人、本当なら自分の想いを告げたい相手、アルフォンスの後ろ姿をとても切なそうに。
月は煌きを発し、闇夜を照らす。
しかし、シュリの姿を見た月は今の彼女をただただ切なそうに照らす。
そしてこれから先の彼女を、きっと悲しそうに照らすのだろう…。