彼女の苦手なもの-3
「ま、まさか……」
大きく間合いを取った彼女はダラダラと冷や汗を流している。
「?」
試合を見ていたアース、スオウ、ドグザールの3人はキャラの様子に顔をしかめた。
バトル中は常に冷静なキャラが、こんなに取り乱しているのを初めて見る。
「ふふふ……我々の得た情報は正しかったようだ……」
ダニーは不敵な笑みを浮かべて懐に手を入れた。
「やっ……!」
嫌な予感がしたキャラはサァッと青ざめる。
「くらえっ!チューチュー攻撃!!」
懐から出したダニーの手のひら……そこには、1匹の……。
「ネズミ?!」
アースが驚きの声を上げた瞬間、訓練場の四方八方からネズミがわらわらと現れた。
「いやあああぁぁぁ!!!!」
キャラは盛大に悲鳴を上げると長剣を投げ捨てて、スオウの身体によじ登る。
「コラ!キャラ?!」
「ダメダメダメダメっ!!ネズミは……だめなのっ!!」
スオウの肩まで登って彼の頭を抱いたキャラは、ブルブルと体を震わせた。
「ハハハハハ!参りましたと言えば許してやりますよっ!!」
すっかり悪役になりきったダニーは、高笑いしてキャラに吠える。
どういうワケか、ネズミ達はジリジリとスオウとキャラに迫っていく。
「絶対言わねぇ!!この、卑怯もの!!」
言い返すキャラだが、スオウにしがみつきながら涙目で怒鳴られても迫力がない。
「ならば仕方ないですね……行け!我が下僕たち!!」
「チュー!!」
「きぃやあぁぁ!!!」
「ぶっ!!キャラっ!!離れんか!」
悪役に徹するダニー、パニックを起こすキャラ、巻き込まれて散々なスオウ……訓練場は正にカオスだ。
「おう、アース。これ収集つくか?」
ドグザールがアースを見ると、アースはゲラゲラ笑っていた。
「お前ぇな」
自分の妻が酷い目に合っていると言うのに笑っている場合か、とドグザールは呆れる。
「いや……だって凄ぇじゃねぇっすか……俺だって知らなかったのに、アイツの弱点探り出したんだから……流石、ゼビア騎士団だ」
勝ちにこだわる姿勢は感嘆に値する。
「まぁな」
確かにそこは凄いが……どうしてこう、騒ぎを起こさずにはいられないのか……ドグザールはそう思ったのだが、人の事は言えないので黙っておく事にした。
「とにかく、どうにかしろや」
「くくっ了解」
アースは風を操って空中を跳び、スオウにしがみついているキャラの直ぐ横に胡座を組んだ姿勢で浮かぶ。
「キアルリア〜?参りましたは?」
「嫌っ!!絶対言わないっ!!」
頑なに拒否するキャラを見て、スオウはため息をついて宣言した。