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掴み取れない泡沫
【大人 恋愛小説】

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18.寿至-1

 久々にサークルの面々で集まろうと言い出したのは俺で、皆社会人になった事だしと、四年前に泊まったあの海岸にある、ワンランク上の民宿の大部屋を借りる事になった。俺は拓美ちゃんと二人でレンタカーを借りて東京から向かい、智樹達は智樹の運転で宿に向かうという。
「もう、サークルのメンツで会う事なんて絶対無いと思ってたのに、何か、嬉しいよね」
 助手席の拓美ちゃんがホクホクの笑顔でそう言うから、俺もホクホクの笑顔で笑い返す。
「塁が帰って来て、君枝ちゃんと智樹がよりを戻して、何か順調だな」
「そうだね」
 勿論俺たちも順調で、俺は近いうちにプロポーズでもしようかと思っていたが、拓美ちゃんのお祖母さんの体調が悪いとかで、ここ数ヶ月は一ヶ月に一度ぐらいの頻度で九州の実家に戻ったりしているので、少し様子を見る事にした。

 宿に着くと「お連れ様がお待ちですよ」と言われ、部屋に通された。ドアを開けようとしたところに塁が出て来て「おう、俺トイレ」と挨拶もそうそうに部屋を出て行ったのには笑った。塁らしい。
「拓美ちゃん!」
「君枝ちゃーん!」
 二人は久方ぶりの再会で抱き合っている。時々メールはしているようだったが、就職してから会うのは初めてだと言っていた。俺も智樹とは就職してから初めて会う。
「元気だったか?」
 俺が手を差し出すと、野球部時代にやったように俺の手をバシンとスイングした。
「おう、至も元気そうだな」
 男らしさに一層磨きがかかったように見えるのはやはり、君枝ちゃんとよりを戻したお陰なんだろうか、なんて思う。
「お待たせー」
 トイレから戻った塁が改めて拓美ちゃんに「久しぶりー」と挨拶をしている。
 ふと目を遣った塁の腕に、見た事のある腕輪が通っていた。おや、と思って、窓から海を見ている智樹と君枝ちゃんに視線を移すと、三人とも少しずつ違った色の物をつけている。こいつらはまだやってるのか。おかしな三角関係を。やれやれと思いつつも、変わらない三人に安堵する。
「なぁ、海行かねーの?」
 行きたいんだか行きたくないんだかはっきりしない抑揚の付け方が塁らしく、でもきっと早く海に入りたいんだろう。さっきトイレに行く塁は、手に海パンを持っていたのを俺は見逃さなかった。
「お前スタンバってんだろ」
 塁が履いているカーキの短パンに智樹が手をかけ、真下に引き下ろすと、女性陣が息を飲む。が、その下にあったのは海パンな訳で。
「お前ぇはどうなんだよ!」
 塁の返り討ちにあった智樹は「自宅からスタンバってました」と腰に手を当てている。いい社会人か何をやってるか。全くこいつらは可愛い。
「じゃぁ支度ができた人から、海行こう」
 俺の声で皆バタバタと支度をして、焼けるような暑さの砂浜に繰り出した。

 あっという間に姿を消したのは塁と智樹で、ブイが浮いているあたりで水飛沫が上がっているからあの辺りでじゃれあっているのだろう。監視員が集まってそちらをみながら険しい顔をしている。
 拓美ちゃんは「露出は控える」と言っていた癖に、なかなか悩ましいビキニ姿を晒しているのには驚いた。俺は何も知らされていなかったのだ。何てこった!そんな格好で「飲み物を買ってくる」と言って姿を消したので、変な男に引っかからないか少し心配になる。
「拓美ちゃんの背中の傷、消えないのかな......」
逆に消えてしまいそうなか細い声で、体育座りした君枝ちゃんが言うので、俺は彼女の尖った肩をトンと叩いた。
「だーいじょうぶ。薄くなってきてるんだよ。それに、メスだったから傷口も小さいし、本人は全く気にしてないしさ。君枝ちゃんが気に病むことじゃないよ」
 それでも申し訳なさそうに眉を寄せる君枝ちゃんの後ろから、たわわに実った胸を引っ提げて拓美ちゃんが御帰還なされた。
「君枝ちゃんはどれがいい?」
 ふと、君枝ちゃんは拓美ちゃんの顔をみて、頬を緩めると、その中からお茶を選んだ。
「至、行こうよ。君枝ちゃん、塁達にジュース渡しといて」
 君枝ちゃんを一人にして行くのは気が引けたが、前回だって誘ってもついて来なかった。きっと今回も、あいつらが戻ってくるのを待っているのだろう。笑顔で「いってらっしゃい!」と手を振る君枝ちゃんは、座っていても小さくて細くて、折れそうだった。智樹と塁の二人に守られて丁度良いぐらいなのかも知れない。


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