鎖縛-1
私はその話にドキっとしながら聞き入っている。少しでも情報は欲しいもので、顔にさえ出さなければ大丈夫だと確信したからだ。
「続き、話すよ?」
「う、うん」
男女5・6人で集まり、貴音の話に耳を傾ける。
「でね…って、どこまで話したか覚えてないから始めから話すよ?」
咳払いを「コホン」と一つ、貴音は真剣な面もちで話を切り出した。
「来恋橋(こいこいばし)の上を、夜中の2時すぎに、一人で歩いているとね?真ん中位まで歩いたところで、前には白い服を着た男の子、後ろからは長い髪の女の子が歩いて来るの。自分はそこから一歩も動けなくなって、いつの間にか男女は自分のすぐ近くにいて、その後……二人は自分を挟むようにして抱き合うんだって。それでね?その現象にあった人は、自分の運命の人が見えるんだって…しかも、5日後には、その人と出会うらしいよ!」
「そんなバカな事…」
男子の一人がそう言うと、貴音も含めた女子数人は、その男子にもの凄い視線をブツケた。流石に居ずらくなったため、他の男子と共に撤退して行く。
「ホント…男って夢がないねぇ…」
歩霧はその後ろ姿を見て呟く。
「そうそう…」
うんうんと橙子も頷く。私はその時、知っている話との食い違いを説明する勇気がなかった。「真姫にも夢はないんだね」と言われそうでヤだったからだ。
実はその話には続きがあり、知っている人もあまりいない。夢を持たせる為、わざわざそこで話を区切ってあるのだ。その続きとは…。
「真姫!」
「わっ!何!?」
「もう放課後。残ってるの私たちだけだよ?」
貴音の言葉通り、教室に残っているのは私と貴音だけのようだ。どれだけ見渡しても、同じような形や色の机と椅子が犇めきあっているだけだった。
「ほら帰ろう?」
「あ…うん」
立ち上がってカバンを持ち、二人で教室を後にする。秋の大会に向け、体育会系の部活に限らず、文化部もかなり熱を入れて練習に励んでいるようで、音楽室からはキレイなメロディーが、校庭からは気合いの入ったかけ声が聞こえてくる。
「歩霧と橙子は?」
「二人とも部活でしょう?」
「ああ、なるほど」
私と貴音の会話はいつもこんな感じ。傍から見れば素っ気ないモノかもしれないが、実際はこんな会話で通じ合っているのは、保育園の頃から一緒だったので、大体の事がわかるからだろう。
「そーいえばさぁ…」
「ん?」
貴音が私に話を振ってくる。がいつもと感じが違う。
「今日のあの話…真姫は乗り気じゃなかったね?どうして?」
「どうしてって…何で?」
「だってそうゆう話大好きじゃん。真姫ってさ」
自負していることの一つだとはわかっている。しかし、あの話に乗るなんて真似はしたくない。いや…できない。
「ま、まぁそうゆうときもあるよ」
「ふ〜ん。私はてっきり…」
「てっきり?」
何か嫌な予感が頭をよぎる。そして、私のその予感は見事に的を射た。
「既にその話を知ってて、もうやったのかと…」
正直な話、実行したわけではない。しかし、その話の真実を知っているからこそ、ノリ切れない部分がある。
「や、やらないよ!別に知りたくないし」
「ふ〜ん…まぁいいや。また明日学校でね!」
いつの間にか、いつも貴音と別れる場所まで来ていた。貴音は腕を頭上に大きく上げて「バイバイ」と手を振りながら走り去るが、噂を噂と受け止めず、実行してしまわないかが心配で仕方がない。
(貴音は賢いから大丈夫だと思うけど…)
だけど、不安の霞は晴れないままだった。そして、5日後、なんの前触れもなく、歩霧は通り魔に殺された。