エピローグ-1
若者たちが集まるクラブ『スケルトン・ハウス』でその晩起きた事件を説明すると以下の通りになる。
夜の8時を少し廻ったときのことだった。
激しい音楽と暗闇に点滅するライトの中、踊りの輪の中に突然悲鳴が起きた。
若者達が座っていたテーブルがひっくり返り、踊っている人ごみの中に一人の若者の体が飛んで来たからだ。
その若者は床に頭から落ちて首を不自然に曲げたまま倒れた。
もう1人の若者は壁に向かって飛んで行き、嫌な音を立てて衝突した。
音楽がやみ、逃げ惑う人ごみに紛れて残りの3人が店から飛び出た。
だが他の者が見ている前で3人目の若者は道路の方に飛ばされ、走って来たトラックにはね飛ばされた。
「助けてくれ」
4人目の若者はその場にしゃがみ込んで手を合わせた。
「ニーナもそう言って頼んだはずだ」
そういう怒りに満ちた声がすると、その男はコンクリートの壁に向かって飛んで行き激突した。
最後の若者はもっとも哀れだった。
何度も見えない何かに突き飛ばされあっちにぶつかり、こっちにぶつかりながら全身血だらけになって行った。
若者は最後まで謝り続けて命乞いをしていたが、さんざんなぶり殺しにされて死んで行った。
その男は5人の中ではリーダー格らしかった。
その場にいた人たちは何か目に見えない怨霊のような存在の怒りに満ちた唸り声を聞いたという。
だが、その怒りの対象が殺された若者たちに向けられたものなのか、それとも怨霊自身に向けられたものなのか知るよしもなかった。
この事件は『ニーナのポルターガイスト事件』として週刊誌を騒がせた。
だが、それ以後不思議な現象は目撃されることはなかった。
誰も使っていない筈のホテルの空き部屋が何者かに使われた形跡があったとか、食料品店や洋品店の品物がほんの僅かだけ仕入れ量と残量が合わなかったということがあったらしいが、盗難届けをするほどでもなかったという。
警察の調べによると惨殺された5人の若者たちは、どうやら都内の某所の草むらで暴行され絞殺された石沢新菜(22才)の事件に関与したものと見て捜査をすすめている。
近く検察で被疑者全員死亡のまま書類送検する予定であるという。
なお、若ものたちを死に至らしめた事件については、多数の目撃者がいたにも拘らず犯人の特定ができず早々と迷宮入りとなった。
これが通称『ニーナ・ポルターガイスト事件』の概要である。