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死角空間
【SF その他小説】

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レストランで-1

俺はその洋品店に入ると下着からシャツやズボンやジャケットを揃えて拝借した。
最近は食べ物以外の物でも簡単に手に入るようになった。
今まで着ていたものは全て袋に入れてゴミ箱に放り込んだ。
俺はここずっと洗濯をしたことがない。
真新しい衣類を着ることがすっかり習慣化してしまったのだ。
食事はレストランに行って、各テーブルを廻り少しずつ拝借することにしている。
特に小食な感じの人のテーブルに行く。そういう人は食べ残しが多いからだ。
俺が自分で注文する訳には行かないので、結局そうなる。
そういうレストラン巡りをしているときのことだ。
ある日、がらの悪そうな男が2人テーブルに座った。
話を聞くと彼らは暴力団関係の人間らしい。
食事が運ばれて来ると、兄貴分らしい目のきつい男が太った男に目配せをした。
するとそのデブはポケットから小さくたたまれたテッシュを出して、それを広げて料理の上になにか細かいものを落とした。
「うわあー、兄貴これを見てくれ。虫が入っている」
「何?虫だって。おい店長を呼べ!」
兄貴分の目のきつい男は大声で怒鳴った。
なるほどこれは因縁をつけてたかる積もりだな、と俺は思った。
店長がやって来た。
「お客様、何かそそうがありましたでしょうか」
「おう、この皿の料理を見てみやがれ。なんだこれは?」
「これが何か?」
「何かだと! ここに虫が3匹……あれれ」
兄貴分の勢いは急に萎んだ。料理には虫がついていなかったからだ。
もちろん俺がこいつらにむかついて虫を摘まんで捨てたのだ。
店長は全ての皿を確認し、その後もテーブルを離れたところから監視していた。
後からまた虫を混入させて因縁をつけられたら困るからだ。
俺はすぐ傍から彼らの会話を聞いていた。
「おい、食べ終わって勘定を済ませる振りをして一目散にとんずらするぞ」
「へい、まさか虫が消えてしまうなんて」
「お前がドジを踏んで生きたまま置いたんだろう。だから飛んで行ったんだよ」
「確か一匹ずつしっかり潰して殺した筈ですがね。虫の生命力ってすごいですね」
「馬鹿野郎。感心してる場合か」
男達は食べ終わると伝票を持って入り口のレジに向かった。
男たちは伝票を渡すと咄嗟に走り出した。だが2mも走らないうちに思い切り転倒した。
俺が足をかけたからだ。二人とも固い床に顔からぶつかって行き、うつ伏せに倒れた。
「お巡りさん、この倒れてる二人です。無銭飲食したのは」
俺は出口で待っていた5人ほどの巡査に向かって叫んだ。
すぐレジの店員たちが後から来たので、そのうちの誰かが言ったと思ったのだろう。
巡査たちは倒れている2人に手錠をかけて立たせた。そこへ店長が出て来た。
「ちょうど良いところへ来てくれました。この人たちがお金を払わずに逃げて行くところだったんです」
すると警官は奇妙な表情を浮かべて言った。
「ちょうども何も、お宅の店の方からの通報でただ食いの相談をしている二人組がいるから逃げ出すところを捕まえてくれということだったから待っていたんですよ」
「はあ? うちの店の者がですか」
その後の話しはとんちんかんなやり取りになったが、兎に角2人が逮捕されて連行されることに変わりなかった。
俺はこういう悪戯なことも随分することがある。
勿論立派なことばかりではない。

 


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