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恋に変わるとき
【青春 恋愛小説】

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女ったらしとクモの巣女-1

「で、結局提出しなかったの?」


地下にある学生食堂で、あたしの向かいに座っていた輝美(てるみ)が、冷めきった唐揚げ定食のサラダをバリバリ頬張りながら言った。


地下のためか、空気の循環があまりよろしくないこの学食は、古びた蛍光灯の元でヤニで黄ばんだ壁や天井を晒していた。


「提出しないつもりだったんだけどね……」


そう言って言葉を濁すようにオレンジジュースをズズッと吸い上げる。


思い出すのは、してやったりなアイツの顔。


ああ、なんであたしは出席票の代筆なんかしてしまったんだろう。


そう、先日の講義で提出しなくてはいけなかった出席票は黄色いものであり、臼井陽介から受け取ってしまった白い出席票では、出席したとみなされなかったのである。


黄色い出席票が配られた時、あたしは密かに「ざまあみろ」とほくそ笑んで、その白い出席票をクシャリと握りしめてやった。


それで自分の分を一枚だけ取ろうとしていたのに、なぜかその時、憎き臼井陽介のイタズラっぽく笑う顔が脳裏に浮かんだのだ。


ーー頼むって、俺これだけは単位落とせねえんだよ。


これ落としたら留年って言ってたっけ。


下唇を噛み締めながらしばらくの逡巡の後、あたしはなんでかもう一枚、黄色い出席票を掠め取っていたのだ。


震える手で、もう一枚の出席票に奴の学籍番号、キーワード、そして名前を書いてやる。


なるべく本人の字に近付くよう、下手くそな文字を真似て。


“臼井陽介”と自分の手がそう書き終えた時、なぜか自分の顔がカアッと熱くなった。


真面目が取り柄のあたしが代筆、しかも初対面のよく知らない男の名前を書いてやるなんて、いつものあたしでは考えられないような異常な行動に、身体がソワソワ落ち着かなかった。


単なるサボり、しかも彼女でもない女に会いにいくような男の不正なんて、絶対許せないのに。


なのに、アイツの意地悪そうに笑った顔がずっと頭の片隅に張り付いているのだ。


そう、今も……。







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