焔の魔導師-1
全体陸の中心に位置する島国ファンの王様、ラインハルトは悩んでいた。
最近、恋人であるエンが転移の魔法陣を使ってちょくちょく里帰りをしているらしい。
しかも、内緒で。
別に転移の魔法陣を使うなとは言わない。
そもそも、この魔法陣はゼビアの魔導師ベルリアが、ファンに居る恋人のミヤとの逢い引きの為にこっそり作っておいたものだ。
ベルリアがミヤと結婚してファンの宮廷魔導師になった際、せっかく作ったからと城内に移動してくれた。
おかげで遠い魔法大国ゼビアまでの移動が一瞬なので、ゼビアに嫁いだ妹キアルリアにも会える。
まあ、魔力を大量に使うし、移動後は結構魔力酔いするので緊急以外は使わないのだが、それをエンは隠れてちょくちょく使っているのだ。
やっぱり後悔しているのではないだろうか?そりゃ後悔するだろう?
遠い国まで男を追いかけて来た時点で大間違いだ。
「そりゃあね、手離すつもりはサラサラ無いし?男同士のあんな事やこんな事も教えて………」
「やかましい」
ゴスッ ガンッ
いきなり頭上に拳が降ってきて、ラインハルトは机に額を打ち付けた。
「何をするんだ、ギルフォード」
ラインハルトは額を擦りながら犯人である双子の弟、ギルフォードを睨む。
「考えている事を全て口に出す癖をやめないか、ラインハルト。男同士の怪しい内容は特に」
「出てたかい?」
「はい♪出来ればもっと詳しく♪」
『キュ♪』
返事をしたのはギルフォードの妻ステラと、エンのパートナー火の精霊アビィ。
彼女はラインハルトの目の前で両手を組んで蒼い目をキラキラさせており、火竜姿のアビィもステラの頭の上で同じポーズをして黄色の瞳をキラキラさせていた。
「……ステラ……」
ギルフォードはうんざりしてステラの両肩を掴む。
「あら、ギル様。ご存知ありません?今、ファンでは腐女子急増中ですのよ?」
王様であるラインハルトがゲイだとカミングアウトしてからというもの、彼をネタにする怪しげな本が増え、それを求める客も増え、今や立派なファンの収入源にまでなっていた。
「一番人気はラインハルト様×アース様ですわ。この場合、アース様が攻めになります。他にもデレクシス様×ゼビア王なんてのもありまして、読んでみますとかなり面白いんですの♪」
『キュア♪』
普段は大人しいステラなのに、何だかハキハキしている……どうやら新境地を開いたようだ。
「その本、私にも貸してくれるかい?」
「勿論ですわ。早速持って参りますわね」
ステラは軽く足を曲げて簡単に挨拶をすると、そそくさとドアに向かった。