焔の魔導師-7
「まあな。正確に言うと『身分なんか気にしないように気遣う相手が気になる』ってとこだな」
アースもファンの姫と結婚する為に、ゼビア次期国王代理という中途半端なワケの分からない地位に居る。
その話を聞いていたラインハルトがいきなりエンを後ろから抱き締めた。
「うえぇっ?!」
「げっ」
突然の事にエンは驚きの声をあげて、アースは気持ち悪そうに顔をしかめる。
「俺、ステラのとこ行くから、じゃな」
男同士のラブシーンなど見たく無い、とアースはシュタッと手を上げて急いで部屋を出ていった。
「どうしたのさ?」
エンは体に巻き付いているラインハルトの腕をぽんぽん叩いて彼を見上げる。
「すまないって気持ちと嬉しいって気持ちと……ああ、もうっ」
それより何より愛しくて愛しくて堪らない。
ラインハルトはエンを抱いている腕に力を入れた。
「痛い痛いっ」
大の男に力一杯抱かれたら、そりゃ痛い。
「はっ、すまない」
ラインハルトは慌てて腕を離して、エンを解放する。
「ふうっ」
エンは息を吐くと苦笑いしながらラインハルトを見上げた。
「まぁ、でも……隠し事しちゃってゴメンね?」
「いや……信用しなかった私が悪いんだ……」
「ラインハルトが大好きなのは信用してよ〜」
エンの妙な言い回しにラインハルトは怪訝な表情になる。
「女の子との浮気は……これからもすると思う……ケド〜…?」
怪訝な表情が一気に怒りの表情に変わった。
「エン=テイラー!!」
「うわっ」
掴みかかってくるラインハルトの腕を避けてエンは部屋から逃げる。
「だってラインにはおっぱいも綺麗な脚も無いじゃん」
「そんなもの無くても満足させてるだろう?!」
「してるけどさぁ〜」
エンとラインハルトの言い合いが城内に響く。
ステラを始めとする腐女子達が仕事の手を止めて2人のやり取りを覗き、他の側近や兵士達はまたか、と苦笑した。
理由はどうあれ、我らが王様が元気なのは良い事だ。
守護神オーウェンが亡くなり、キアルリア姫が嫁に行ってからというものラインハルトの周りの空気はどこかピリピリしていた。
それを緩和してくれたのはエンだ。
新しい魔導師となり、公私共に国王の支えになるエンを……ファン国民は心から歓迎するのだった。
ー焔の魔導師・完ー