焔の魔導師-5
「……君達、後は良いよ」
「はぁい♪失礼します」
メイド達はきゃあきゃあ騒ぎながらすれ違いざまに「頑張って下さいね♪」「ごゆっくり♪」という言葉を残して去って行った。
「可愛いなあ〜」
スカートをヒラヒラさせて廊下を歩くメイド達を、わざわざしゃがんで見送るエンをラインハルトは恨めしそうに見る。
「だから……女性が良いなら……」
「その男とか女とか言うのやめない?僕はラインが好きなんだってば」
エンは立ち上がるとラインハルトの頬を両手で挟んだ。
「言ったでしょ〜?後悔する為にファンまで来たりしないって……ラインハルトが好きだよ?性別は関係ない」
「じゃあ何で浮気するんだい?」
「ラインが仕事を抱え込むからだよ」
エンの言葉を聞いてラインハルトは思い出す。
エンがちょこちょこつまみ食いを始めたのは、ステラの妊娠が発覚してからだ。
ギルフォードには出来るだけステラの傍に居てもらおうと、ラインハルトはギルフォードに仕事をあまり回して無かった。
「ラインは1人で抱え込んだ挙句、暴走するってキャラが言ってたよ〜?」
そんな時は何を言っても聞こうとしないので、別の事で気を逸らせと妹姫にアドバイスを受けた。
エンには浮気以外に方法が思い付かなかっただけなのだ。
確かに、浮気騒ぎの後は「仕事なんかやってられるか」と、側近達に回してた気がする。
ラインハルトは自分の不甲斐なさにガックリと落ち込んだ。
「まあ、柔らかい胸とかスベスベの脚が好きなのもあるけどねえ」
ラインハルトには無理なものが欲しくなる時もある、とエンは笑う。
「……柔らかい胸とスベスベの脚は無理だけど……メイド服ぐらいなら着てあげるよ?」
「ラインには似合わないよ〜」
2人はクスクス笑いながら唇を軽く重ねる。
「うわ……見たくねぇもん見た」
至近距離でかけられた声に、2人は驚いて振り向いた。
「アース殿?!」
そこには物凄く嫌そうな顔のアース。
「ラインハルト王。ゼビア次期国王代理、魔導師アース、登城致しました」
カツンと踵を鳴らして姿勢を正したアースは、正騎士の礼をして挨拶をする。
「どうしたのさ?」
わざわざファンまで何しに来たのか?とエンは問いかけた。
エンの問いかけに、アースは懐から封筒を出してぺしっとエンの頭に置いた。