焔の魔導師-3
「やっぱり男は嫌なんだろうなあ」
だから浮気するんだ、とラインハルトは机に突っ伏していじけてしまった。
「何でそんな話になってるのさ?」
そこへ突然エンがやってきて、珍しくしかめっ面でラインハルトに声をかける。
「エン殿」
ギルフォードは振り向きつつ内心思う……何でゼビアの人間はノックをしないのか……アースは勿論、しっかり者のベルリアもしょっちゅう忘れる。
「何か用かい?」
ラインハルトは少しだけ顔をあげてエンに視線を向けた。
その表情は、完璧に拗ねている。
「ベルリア導師がサインはまだかってさぁ」
宮廷魔導師になると何をするにも王様の許可がいる。
現在、ベルリアの助手っぽい仕事をしているエンがその書類を取りに来た、というワケだ。
「はい」
ラインハルトはとっくの昔にサインした書類をエンに差し出す。
「終わってんなら早く届けてよねぇ」
エンは書類を取ろうと手を出した……のだが、ラインハルトはその手から逃げるように書類を動かした。
「……何さ?」
「私に何か隠し事は無いかい?」
ラインハルトの緑色の視線とエンのオレンジ色の視線が絡まる。
「隠し事?してるよ〜?でも、教えない」
ビキッ
エンの答えを聞いた途端、ラインハルトは立ち上がりエンに指を突きつける。
「エン=テイラー!男が嫌ならゼビアに帰るが良い!」
何でそんな話になるのか分からないが、ラインハルトはそう言い放った。
「男は嫌だよ。ラインハルトが好きなだけ。だから帰らない」
しかし、あっさりと即答したエンの言葉に、ラインハルトはブワッと赤くなって突き付けた指をくにくにさせる。
「書類どうも〜」
その隙にエンはラインハルトの手から書類を取り上げて、さっさと部屋を出ていった。
「……ライン……手玉に取られてるぞ?」
「くそう……はぐらかされた……」
再び机に突っ伏したラインハルトを横目で見ながら、ギルフォードはこれ見よがしにため息をついたのだった。