焔の魔導師-2
「ステラ、足元気をつけて」
「大丈夫ですわ」
「アビィ、頼むよ」
『キュッ』
気遣ってドアを開けるギルフォードを見上げ、穏やかに微笑むステラ……そのお腹はふっくらと膨らんでいた。
ステラを見送るギルフォードも穏やかな笑みを浮かべている。
「順調みたいだな」
戻ってきたギルフォードにラインハルトは肘をついた手に顎を乗せて言った。
「だな」
「楽しみだなあ。キアルリア似の男の子」
それが、ステラの希望だが、まだ性別は分からない。
ちなみに、アビィは身重の彼女につきっきりの護衛。
これなら何かあった時、直ぐにエンに連絡がいく。
「産まれるのは楽しみだが、ステラが苦しむのが分かってるからむやみに喜べん」
産みの痛みは相当なものだ。
あの華奢なステラがそれに耐えねばならないと思うと……出来る事なら代わってやりたい、とギルフォードは思う。
「まあ、なあ……」
自分らを産んだ前王妃も元々病弱な方で、2人を産んだ後「もう無理」と言って妾を望んだらしい。
前王の父はそれを拒否したが「このままじゃ城に華が無い、姫が産まれるまでは頑張れ」とゴリ押ししたと聞いている。
どうやら、娘が欲しかったようだ。
そこで選ばれたのが当時、王妃の護衛だったキアルリアの母で、彼女も「王はタイプじゃないから嫌」と拒否ったらしいが王妃の泣き落としで承諾したという話だ。
しかし、中々子宝に恵まれず……やっと出来た姫に3人が歓喜していたのはラインハルトとギルフォードも良く覚えている。
今まで気づかなかったがこうやって考えると、我らの父親は女性の尻に敷かれるタイプだったようだ。
「名付け親にはなってくれるんだろ?」
「勿論だ。ミドルネームは決まってる」
「ミドルネームだけか?」
「性別も分からないし、後は顔見てから決めようかと思ってな」
産まれてみたら全然違った、という事もあり得る。
「そうか……ところで……」
「ん?」
「エン殿がどうかしたのか?」
さっきの大きな独り言はエンの事だろう?とギルフォードは問いかける。
「ああ……隠し事をされてるみたいでね。ちょっと気になっただけだよ」
「また、使用人と浮気かい?」
「…………」
エンはラインハルトみたいに真性のゲイじゃなくバイセクシャル。
ファンのメイド服って萌え〜、という理由で何度か使用人と寝ている。