「キルラジ」-1
『……ブッ、……ブブブ。』
それはラジオから流れてくるノイズだった。
ノイズはやがてどことも知れないスタジオが流す電波を拾った。
『……ブゥン。ブッ。繋がったかなあ?……アハッ繋がってるし聞こえるし!俺ってばやるじゃんよアハハ』
ラジオのスピーカーから聞こえる陽気な男の声。本来ならば、この周波数でこの日のこの時間と言えば、退屈なニュースが放送されているはずだったが、今日は違っていた。
若い男の声が、ラジオというメディアをたやすく利用していたのだ。
いわゆる電波ジャックである。
『んじゃあ第一回目の放送始めようかぁ?用意はいいかぁ?リスナー共ぉ歯ぁ磨いたかぁ?アハハ!』
しかし、この第一回目の放送を聞いている人間はまだ誰もいなかった。
この時は、まだこの番組の異常さに誰も見向きもしていなかったのだ。
『名付けて!殺っちまいなラジオ!』
スピーカーの向こう側から拍手が一人分だけ聞こえた。
『略してキルラジねアッハハ!センスねぇとか突っ込んでるリスナーいるかもぉ!アハハ!ぶっ殺しちゃうぞぉ』
言い方こそ可愛らしいイントネーションだったが、メディアを使って言うには正気の沙汰ではない単語が混ざっていた。
ラジオは続いて、番組内のコーナーに移っていた。
『まぁ第一回目だから?当然リスナーもまだ少ねぇんだろうからぁソッコーでコーナー逝っちゃうよ!これがメインの番組なんだけどね〜アハハハ!んじゃんじゃお手紙きてるんで読むよん』
紙の擦れる音が聞こえてくると、少し間を空けてDJの声が帰ってくる。
『えっとお……。名前はね、小林京子ちゃんからのお手紙!……えと、サクさんこんにちは。はい、京子ちゃんこんちゃす!あ、サクってのはオイラの名前さ。んで、それで……、私は先日彼氏にフラれてしまいました。彼に電話で、「お前ってウゼーんだよな」といわれてしまい、それきり音沙汰なしなんです。』
そこまで読むと、サクは言葉を切ってしまった。ため息をつきながら、また紙の擦れる音を出していた。
『ん〜、つらいねぇ京子ちゃん……。きっと尽くし過ぎたんだね。でもそんないい娘を酷い言葉で振っちゃう彼ってば、なんかムカついちゃうよね!なぁリスナーのみんな!そんな彼の声聞きたいよね!だからねん、京子ちゃんとただいま中継で繋がってるのぉ〜!アハハ、京子ちゃん聞いてるぅ?』
その声を、小林京子は阿久津弘明の部屋で聞いていた。
ラジオからの問い掛けに応えたい衝動に駆られながらも、方法がわからず困惑していたところに電話のベルが響いた。
勘というのだろうか。京子にはすぐにその電話が、サクからのものだとわかった。
だが、その受話器をすぐには取ることはしなかった。
すぐ脇に横たわる阿久津が、短い声を上げ目を覚まそうとしていたからだ。
固まる京子。
しかし、しばらくたち、阿久津の目覚めはまだしばらくは延長しそうなのを確認して、ようやく電話の受話器をとった。