「キルラジ」-3
『……京子ちゃ〜ん?もしかして殺っちゃったぁ?』
黙り込んでいたサクがラジオ越しに話し掛けた。京子はというと、血がべっとりと付いた硝子の灰皿を手に持っていた。
京子の右手も赤く染まり、阿久津は顔がめちゃくちゃになっていた。
始めは整っていた顔立ちの阿久津だったが、今は鼻が右に曲がり、額が割られ、右目が陥没し、左耳はちぎれかけ、蜘蛛の糸のように血が顔中に広がっていた。
しかしその様はラジオでは伝わらず、未知の異常性だけが伝わっていたばかりだった。
『ハァ……ハァ…ハァ。ごめんなさい、サクさん。彼、なんだか、……もう動かなくなっちゃった』
息切れ切れに言った京子は、台所へと、子機を持って移動した。
『アハハ!いいよいいよォ〜京子ちゃ〜ん!悪いのは彼だからねん。番組的には気分爽快!ご機嫌さ』
陽気な態度を崩すことなく、サクが続けた。
『京子ちゃん、これからどうしたい〜?アハハ、まぁわかってるよねぇ』
一度頷いた京子だったが、ラジオだと気付いて、はい、と短く答えた。
彼女が答えたすぐあとには、スー、という気体が抜けるような音がラジオから発せられた。
『私、彼を愛してるんです。だから、私も行かなきゃ……』
そかそか、と返事をしたサクは、再び黙り込んだ。しばらくすると、凄まじい爆発音が一瞬だけラジオから流れ、すぐに止まった。
電話を切ったときの、ツーツー、という電子音が鳴り、すぐにまたサクが話し出す。
『いやぁ、切ない女のヒステリー!アハハ、どうだった?リスナー諸君!感動ヂャン?』
陽気な声は深夜の2時まではなし続けて、やがて終わった。
翌日、爆発炎上した阿久津弘明の部屋のある社宅から、二人の焼死体が発見された。
警察の捜査から、阿久津弘明が小林京子により撲殺されたことが判明し、それを生放送していたラジオ番組の存在が公となった。
これが、電波ジャック殺人事件。通称『殺人ラジオ』の始まりだった。
〜End〜