「キルラジ」-2
『……もしもし』
自分の声がラジオから聞こえたことに、戸惑った。なんとなく、変な感じだと思い、おかしくなってくる。
『もっし〜?京子ちゃん?アハハ!お初〜。あ、今オイラ、ブイサインだよん』
京子は初めて聞いたわけではないサクの声で、初めましてに類する挨拶をされ、口元をほころばせた。
『サクさん初めまして。』
『いやぁつらいよね京子ちゃん!でもね、それも今日までだよん!アハハ。』
『そうですね』
応えながら、京子は脇に居る阿久津に目をやった。苦しそうに顰め面で眠る阿久津が小さく呻いた。
数時間前に京子が薬で眠らせたのだ。このラジオに出演するための準備として、そうしたのだった。
『アハハ〜!んじゃ後は受話器をマイクがわりに使っちゃって!任せたゼィ!』
それきりサクは黙り込んだ。ラジオからは、京子の持つ受話器が拾う音以外、何も聞こえなくなっていた。
それから数分後、ラジオから音が聞こえてきた。
眠っていた阿久津が目を覚ましたのだ。
『……ん?』
遠い音だったため、京子は一度電話を切り、子機からサクのスタジオへとかけ直した。
『目が覚めた?』
今度は京子の声。
子機をすぐ近くに置いたため、さっきよりは聞き取りやすい音だった。
『……なんだこりゃ?』
阿久津の声は低くハリのある声だった。
衣ズレの音がラジオから出る。
『あ?なんだよ……京子か?何やってんだ?』
体をロープで縛られ、身動きできない状態の阿久津は驚きの混じった声を出した。
首だけを巡らせて自分の置かれた状況を必死に確認しようとしていた。
『あなたが連絡くれないから、来たの』
淡々と話す京子は阿久津に近づいた。
阿久津が京子を見上げるような形となっている。
『連絡って……、俺らもう終わっただろ?』
もぞもぞと動く阿久津の姿はいも虫のようだった。
『でも、それはあなたが勝手にそう思ってるだけ』
私はまだ愛してる。
最後に付け足して、京子は足で阿久津の顔面を蹴り上げた。
『ズザァ……ガコッ!』
京子の足から脱げたスリッパが床を滑り、阿久津の頭が壁にぶつかった。衝撃で倒れてしまった子機を立て直しながら、京子はもう一度、今度は阿久津の腹に蹴りを入れた。
『あ゛……ぁあぅ!』
阿久津の悲鳴が生々しくラジオから聞こえる。
それから、断続的に鳴り始めた鈍い衝撃音が、ラジオを異様な雰囲気で飾った。