壊-1
人間の心なんて脆いもんさ。無論俺だってそうさ。壊れそうになる。
それでも俺は限界ギリギリで安定を保っている。心が壊れたら自分がどうなるかわからないから…。
毎日退屈な日常を過ごしている。いっそ自分ごと、周りを巻き込んで壊してやろうか?けど、そんなことが出来れば俺は苦労してない。
何故だか俺はお人好しなのだ。学校生活でしか知らない奴らだけど、俺の勝手で壊したら悪いような気がするのだ。
まぁ壊したくなったらいつでも壊せるからってのもあるんだけどさ。
そんなある日、俺の人生を変える大きな出来事が起きた。
「キャー!!」
隣のクラスから女の悲鳴が聞こえた。と同時に一斉に生徒達が逃げているのが見える。
「皆早く逃げなさい!」
隣のクラスの担任が俺のクラスにも叫ぶ。授業途中だったが、皆教室から走って出ていく。先に逃げていく奴らの表情が明らかに尋常じゃないから、俺達のクラスもより恐怖に煽られている。
「何だ…ここはもうそんなにいないなぁ…」
突然、ベランダから見知らぬおっさんが入って来た。隣のクラスとはベランダが繋がっているから入ってこれたんだろうな。
「後はお前一人か」
あ、本当だ。教室はに俺しか残ってないや。
「まぁ殺れればいいか…」
おっさんの手にはサバイバルナイフ。刃先が赤い。ありゃ多分血だな。誰かを切ったんだ。
そんなものを見ても、俺は冷静だった。教室の後ろの隅に立て掛けてある金属バットを思い出す。野球部の奴の私物だが、この際気にしない。
俺はそれを手に取った。
「それで抵抗するのか…?」
「抵抗……」
抵抗=戦う
そんな等式が俺の頭の中で立てられた時、俺の体中から見えない何かが放出された気がした。これがいわゆる殺気という奴だろうか?
俺はもう一度おっさんを見た。手にはナイフ、口元には笑み、目は明らかにイッてる。でも、殺気は無かった。俺を殺そうとしてるのは確かなのに。
…そっか。このおっさんは壊れたんだ。俺より一足先に壊れただけなんだ。
冷静に判断できる自分が怖いなぁ…とも思う。冷静だから判るんだ。
「…これはチャンスなんだな」
「あ?何だって?」
「俺が壊れるチャンスさ。…一緒に壊れようぜ?」
バットを振り上げおっさんに向かって突っ込んでいく。
俺はおっさんを何回も撲り続けた。体が動くままに、何回も、何回も…。
気付いた時にはおっさんは動かなくなっていた。壊しきってしまったと思った。
ベランダの外にはさっき逃げた奴らがいる。
「あいつらも壊してやろうか…」
どうすればあいつらを一気に壊してやれるかを考える…。
「なぁんだ、簡単じゃねぇか」
壊れる瞬間を見せてやればいいんだ。それで充分だ。ここは4階、全く問題は無い。
俺はバットを放り投げた。バットは『おっさんだった肉の塊』に当たった。もう元の顔もわからない。腕や足が普通じゃない方に曲がっている。その周りは血まみれだ。この光景だけでも充分な気もするが、やはり瞬間というものが大事だろう。人間が壊れる瞬間、潰れる瞬間を見たら、やっぱ壊れるよな…?
「行くぞー!!!!」
ベランダの手摺りに登って叫ぶ。案の定皆俺の方を見る。
「さぁ、皆で壊れようよ…」
俺はベランダから飛び降りた………。
END