沼の歌姫-3
何度もお礼を言って、あたしは家に帰った。
両親も周囲も、声の時と同じように、あたしの変化に何も言わなかった。
その日から、あたしをとりまく環境は激変した。
それまで、あたしに見向きもしなかった男の子達が、競ってチヤホヤしてくれる。
デートのお誘いが毎日あるし、もう最高!
「フルール。……なーんかお前、変わったよな」
幼馴染のジーノが、家の窓から中を覗き込んで、口を尖らせた。
背が高く、そこそこ顔も良いジーノへ、密かに憧れてる女の子はけっこう多い。
あたしから見れば、口が悪いお調子者なんだけど。
「べ、別に……前からあたし、こうじゃない」
ドキリとし、あたしは慌てて答えた。
「変なこと言わないでよ。これからデートなんだから、忙しいの!」
「デート?誰とだよ」
あたしは相手の名前を告げる。学校で一番人気のある男の子だ。
「へ?アイツ、確かマガリーと付き合ってるんだろ?」
「今は、あたしのほうが好きなんだって」
怒り狂うマガリーの顔が頭に浮かんで、あたしはますます上機嫌になった。
「……お前、やっぱり変わったよ。しかも、とびきりヤな感じにな」
顔をしかめてジーノは窓から顔を引っ込めた。
「ちょ……っ、何よ!」
とっさに反論しようとして窓から顔を突き出したけど、もうジーノは隣りの自宅に入ってしまっていた。
(嫌な風に変わった?)
冷たい手で、心臓を掴まれたような気がした。
あたしは、変わったんだろうか……
鏡を見れば、そこには綺麗に着飾った金髪の美しい少女が写っている。
赤毛のさえない女の子は、沼の岩に一人で座っているはずだ。
――ガラガラの声で。
そういえば最近、忙しくて沼に行っていない。
歌姫には悪いと思ってるけど、明後日には王都に行くんだし、それが終わったら身体を返すんだもの。
そうよ。
それまで、ちょっとくらい楽しんでも良いじゃない。