戦士の検証-2
「あっ、社長、言うのん忘れてました。さっき奥さんから電話ありましたんや」
「な、な、な、なんやて!」
おっ!エエ反応するやないか♪
「だからご自宅から電話ですがな」
「な、な、な、何か言うてたか?」
「何かって、『社長はそっちに行ってるか?』って」
「ほ、ほ、ほんでキミはどう言うたんや?」
「エエ、『居てます』って言うときました」
「ゲ―――――!アカンがなアカンがな―――――!」
「何でですのん?」
「あいつ西ちゃんのこと勘ぐっとるんや」
「うほ!奥さんは支配人さんとのこと知ってますんか?」
エエどエエど、エエ感じやんけ!
「そうやがな、しゃーからワシが夜中にココに来るのん嫌がっとんねや。ワシがここに来てるって知ったら…」
オクレ社長はそう言って青い顔をしてブルブルと身震いした。
うほほ、そうやがなそうやがな、こいつは嫁はんに頭が上がらんのや♪こいつの嫁はんのヤキモチのお陰で、このホテルに覗き部屋が無くなったくらいやからな。噂ではこいつの放漫経営のお陰で嫁はんの実家から多額の援助を受けてるらしいからのう。
「社長、そんな危険を冒してまでよう来ましたな」
こいつは欲望の権化やから理性という抑えがない人種なんや。
「そうやがな竹林くん、危険を冒すためにワシも努力してんねんで」
「努力って何ですのん?」
どんな努力か知らんけど、チョットはオレらの待遇向上の努力せえよ。
「さっきも嫁はんがクタクタで眠りこけるくらい頑張ってきたがな。ワシは命削りながら頑張っとるんやで」
うげ〜、還暦を超えてんのに何をしとるんやこいつらは…
「社長、ちゃんとトドメはさしましたんか?」
支配人が物騒なことを聞いた。
「西ちゃんそれやがな。ワシ、気が急いてしもてトドメの10突きと、事後ペロペロするのん忘れてしもたんや」
「ゲ――――!気っしょ―――――!」
アカン、ゾワゾワ寒気がしてきた。既に戦意喪失していた松原と岸和田も、違う意味でも戦意喪失。
「こ、こら―!気っしょ―って何やねん!」
「ちゃいますちゃいます。え〜とえ〜と、『気っしょ―』って、『気持ち良さそうや』の意味ですやんか。ヤングのナウい言葉でっせ(注:時代は20世紀後半です)」
「ホンマかいな」
「それよりも、オクレ、イヤ、社長早く家に帰らんと」
「なんやてこらっ!キミはまたワシのことを『オクレ』って言いやがったな!」
オクレ社長が甲高い声で怒鳴った。
「ちゃいますちゃいます、え〜とえ〜と、そや、『遅れたらあきません』って言うたんですよ。ほら、遅れんと早よ帰らな奥さん怒ってまっせ!」
「おー、そうやったそうやった、早よ帰らんとエラいことなるがな。西ちゃん、そう言うことでワシ家に帰るわ。その調子やったら1人でいけるやろ。ホンダら行くで!」
オクレ社長は1人そう言いながら、いつもの調子で小走りで部屋を出て言った。
そんな社長の背中に向かってオレは激励の言葉を投げかけた。
「社長――!オ・ク・レたらあきまへんで――!オ・ク・レたら―!もう、行きよったかな?社長、遅れるなよ―!このオクレめ、鬱陶しいんじゃボケ!死ね―――――!」
すると、その帰ったはずのオクレが「何か言うたか?」と言ってドアから顔を覗かせた。
「ゲッ!」
「西ちゃん、言い忘れてたわ。幾ら勝っても部屋代はまけたらアカンで、キッチリ貰いや!」
オクレ社長はそれを言うと、またもや小走りで去って行った。
やっぱり、メチャ鬱陶しい。