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若き亀やん、再び!(シリーズ3麻雀編)
【コメディ その他小説】

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ホテルレイクサイドにて-1

「支配人さん、あんた大丈夫か?なんか手ぇメッチャ震えてるやんか、オレのリーチがそんなに怖いんかいな?」

オレは余裕タバコをふかしながら、対面に座りブルブル手を震わす気の弱い支配人に声を掛けた。

「だ、だ、大丈夫や」

支配人は震える手でツモッた牌を手牌の中に入れ、代わりに端っこの不要牌を恐る恐る河に捨てよった。

「それや―――――!」

オレは支配人が捨てた『東』を指差しながら力いっぱい怒鳴ったった。支配人は案の定「ヒャー!」と言いながら白目を剥いてひっくり返りよった。

「亀やん、ホンマにそれが当りけ?お前さっきリーチの時『東』捨ててるやんけ!」

オレの右側に座る岸和田が、オレの捨牌を指差しながら言った。

「アホ!誰も当りや言うてへんわい。オレがさっき捨てたのが『それや』って言うただけや。ホンマ、マンガみたいなオッサンやで♪うひゃっひゃっひゃ!」

「お前、そんなことしてたら支配人のオッサン死によるど。別にエエけどのう、へっへっへ」

オレの左に座る松原が山から牌をツモりながら言った。そして、「ちっ!無駄ヅモばっかりや!」と悪態をついてそのままツモ切りした。

「おっ!まっつん、エエ根性しとんのう。オレのリーチにそれ出すか〜、残念ながらセーフや!」

「アホ!亀やんみたいな運の無いヤツのリーチなんか一個も怖あるかいな!」

「ホンマホンマ♪」

岸和田も調子乗っ取る。こいつら舐めやがってオレの3面チャンのハネ満見てしょんべんちびるなよ!

「支配人さん、起きや!まっつんの捨てたんセーフか?」

オレは腹立ち紛れに対面でひっくり返る支配人に、部屋に備付けのマッチ箱を投げつけた。

「と、と、富田林くん、堪忍して〜なあ、ワシ心臓止まるかと思ったで…」

支配人はムクムクと起きだし、松原の捨て牌を見て「ふー」と残念そうにため息をつきよった。このオッサンの得意技は死んだフリや。都合が悪くなったら直ぐに気を失った芝居をしよる。子供みたいなヤツや。

「よっしゃ!小市民のお前らに選ばれし者の『激ヅモ』を見せたろか!」

オレは指先にパワーを漲らせて山に手を伸ばし、気合と共に「コォ――――!」と息を吐き出した。

この『激ヅモ』は指先に牌が触れた途端、オレのパワーがその牌に伝わってどんな牌でも当り牌に変えるんや!何事も気合じゃボケ―――!
 
「コォ―――――!」

オレは気合を込めて摘まんだ牌を親指の腹でキリキリと盲牌した。

「アホ!『こぉー』はもうエエねん。で、どないやねんな、当りツモったんか?」と岸和田。

ボケの岸和田の間の抜けた声を聞いて一気に気合が抜けてしまった。親指の腹から伝わる感触は当り牌とは違っていた。

「クソッ!『西』や!」

「それや―――――!」

オレがツモ切りした途端、復活したばかりの支配人のオッサンは、そう言って手牌を倒した。オレはその手を見て目ん玉が飛び出そうになった。

「ゲ―――――!なんじゃその手は―――――」

「四暗刻単騎待ちのダブル役満や〜、ワシ親やから96000点やがな〜♪」

「マジか、東一局が始まったばっかりやで…」

岸和田もビックリして言葉を詰まらせよった。

「富田林くん、一発ハコ点やな、東場で3人のヤキトリ入れると…お〜〜〜!気ぃ失いそうや、今の東一局だけで5万円以上の勝ちやがな〜」

嬉々とした支配人はさっきの気の弱さは微塵にも無かった。

「亀やん、あそこで『西』は無いで〜、単騎は『西』で待つんは常識やんけ、捨てるんやったら『西』以外やろ」

「亀やん、それラストの『西』やで、オレ頭で2枚もっとるがな。ホンマお前みたいな運の無いヤツ初めて見たわ…」

岸和田はリーチしてるオレに対して無理なことを抜かしよるし、と松原まで言わんでエエことを言うて、傷心のオレを追いつめよる。オレはこの時自分で出来る最良の事をした。

「う〜〜〜ん…」

取り敢えず負けを誤魔化すために死んだフリをすることにした。

すると、タイミングよく部屋の扉が開いて、しわがれたおばはんの声が聞こえてきた。

「死んだフリはアカン。おばちゃん悲しいわ」

『黙れ、チ―――――ン!』

オレは死んだフリをしながら心の中で叫んだ。




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