ホテルレイクサイドにて-2
オレは富田林亀太郎。みんなはオレのことを『亀やん』て呼びよる。まあ、人気者にありがちなアイドル的呼称やな。今麻雀をしていた場所は、ホテルレイクサイドの212号室や。しゃれた名前やけど湖なんかどこにもあらへん。どぶ池の横のラブホテルや。
オレは何の因果か、このラブホテルの清掃係のアルバイトをしている。オーナーの大和川社長の薄い薄い親戚が、一緒に麻雀をやっていた岸和田や。こいつは中学の時の同級生で、プー太郎のオレをこのホテルに誘いよったんや。もう一人の松原=まっつんも中学の時のツレや。
月曜日の晩は客が少ない。深夜0時を回ったら一律泊り料金になるから、今入ってる客も時間を掛けてゆっくり楽しみよる。それで暇を持て余した支配人を誘って、強引に部屋を開けさせて麻雀をしてた訳や。社長は平日には滅多に来えへんしな。
気の弱い支配人をカモにするつもりがこんな事になるとは、オレってムチャクチャツイてないやんけ…
「と、富田林くん、死んだフリしたらアカン。誘ったんはそっちやからちゃんと払てや」
誰が払うかい!
「はよ起きてえな」
起きてたまるか、ボケ!
「ホンマは起きてるんやろ。ワシホンマはこんなことした無いねんけど金のためやからしゃーないし」
このオッサン、気ぃ弱い癖に金に執着しとるなあ。
「し、支配人さん、それで何するつもりや!」松原が慌てた。
「金のためや…」
このボケ、何さらす気や?
「おいおい、まさか本気ちゃうやろな?」岸和田も慌ててる。
「起きひん富田林くんが悪いんや〜、ひひひ〜」
一体何なんや?
「おい、このオッサン目がイッてるど、アカン本気や!」
臨場感溢れる岸和田の声が響く。
えっ、何なの何なのおおお?
「ひひひひひ〜」
「うわっ!やめ、あ―――――!」
尋常じゃないその叫び声と殺気を感じたオレは体を捻った。その一瞬後、今までオレの頭が有った所に『ガシャッ!』と、鈍い音が響いた。危機回避を喜んだのは一瞬の事。
「アツツツッ!アッツ―!メチャ、アッツ―!」
オレの後頭部に飛び散った熱いしぶきが掛った。慌てて振り返って先ず目に飛び込んだのは、電気ポットが蓋を開けた状態で転がり、もうもうと湯気を立てている光景だった。それを見ただけでもゾ〜ッとしたけど、殺気を感じて目線を上げると、湯気越しに見えた狂気の支配人の目は、しょんべんをちびりそうになるくらい恐ろしかった。
狂気の支配人はこちらにイッた目を向けて「ひひひ〜、残念」とヒクヒク笑っていた。
ゾォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜こ、こいつの目ぇ、殺人者の目ェや!絶対二、三人殺ってるど…