南風之宮にて 3-2
二人はそろそろと近付いて、離れた木陰から観察した。
特徴のない軽鎧と剣で、どちらにも徽章は見られない。判断は難しいが、ロンダーンのこの地方で使われる装備品とは違うようにハヅルには思われた。
「十人単位で先発か。斥候だろうけど、どうする?」
「せっかく行き会ったんだ。先に進ませたくない」
ハヅルは迷わずそう応えた。
「わかった」
エイは反論もなく、短く頷いた。
ハヅルとエイは互いに合図もなく、同時に飛び出した。先発隊の横ざまから襲いかかる。
虚をつかれた最初の数人は、声をあげる暇もなく絶命した。
ハヅルの主な武器は、ツミの里で鋳造された一族独特のひとまわり短い刀剣だ。
エイの振るっている大段平よりも格段に細く薄い造りで、片刃でわずかに反っている。
身軽な彼女の動きの邪魔にならないことが第一、それから、折れにくさと切れ味を追求した構造になっていた。
それ自体の重量は小さいが、ツミは人より腕力が強い。
正確に刃を立てて打ち込めば鋼鉄の帷子でもたやすく切り裂くことができる。
ハヅルは馬上からそれを無造作に振り回しては、走り抜けざまに兵士の喉や胸を斬り払っていった。そうしながら、横目にエイの剣技を眺めた。
長身ながら、少年らしさの抜けきらない彼の体格にはまだ見合わぬ大段平を、片手で軽々と操っている。
鎧の上から胸を刺し貫き、頭をかち割り、首を叩き落とす。
剣戟とも言えない、わずかな時間の出来事だった。
神域を血生臭く汚して、二人はそのまま元の行程に戻った。
その後は誰にも出会うことなく、二人は予定よりずっと早くに結界の端へとたどり着きつつあった。
とはいえ、ここにきて回り道を余儀なくされていた。結界のわずかに内側に、敵軍が広く展開していたのだ。
確認できただけで、数十人単位の小隊が数個。向こう側にもまだいるだろう。
五十人に満たない親衛隊と神宮衛士で、突破を強行しなかったのは正解だった。
しかし、とハヅルは首をかしげた。
予想していたより、襲撃者の進軍は遅い。
先程の一団が斥候としても、参拝客たちの戻る時間もあったのだから、本当なら先鋒がもう宮に肉薄していてもおかしくないはずだ。
「本軍を待っている…とか?」
「……そうかもしれない。何かを待っているのかも」
まさかわずかな神殿の衛士や王女の親衛隊を恐れて躊躇しているわけでもあるまい。この数ならば、さっさと進軍した方が確実なはずだ。
もう少し外側ならば……結界内でさえなければ、変化して軍隊丸ごと一網打尽にしてやれるのに。ハヅルは内心で舌を打った。
だが樹海を大きく回り込んでようやく結界を抜けたとき、彼女たちの疑問には一つの解答が示されたのだった。
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