南風之宮にて 3-11
「そうなんだ。でも君たち一族は……?」
エイはそこまで言ってから、あわてて口を閉ざした。
「一応、魔族ではないと聞いてる。実際どうだか知らんが」
「そうか。そうだね、君たちは魔族っぽくないや」
エイが小さくほっと息をついたことに、ハヅルは気づいていた。
「魔族にも人間に似た形のものはいるぞ。そういうのに限って人里に適応しやすいから、たまには紛れ込んで悪さもする。だまされないようにしろ」
「く、詳しいんだね」
「ツミの里には、魔族がよく出るからな」
ツミの里はある種の魔族の生存に適した地であるらしく、国内でも数少ない頻出地域の一つとなっている。そして、力を十分に発揮できる環境であれば、魔族を恐れるいわれは彼女たち一族にはない。
ツミの子供はみな、魔族を狩ることで力の使い方を学んでいくのである。
魔族の姿が消えるのを確認しながら、ハヅルは気付いた。
「魔族は二体、だったな?」
「そうだった……今なら、村の出口は人間だけのはず」
二人は顔を見合わせた。
「動けそう?」
「……馬に乗るくらいは、なんとかする」
本音を言えばこのまま寝入ってしまいたかったが、彼女は頷いた。エイは気遣うように、彼女に手をさしのべた。
「少しでも距離を稼ごう。君が回復次第、できるだけ短時間で飛んでいけるように」
裏の林に隠した馬のもとへ、エイに支えられながら重い体をひきずってたどり着いた。
乗馬しようとしたときだ。
足下のおぼつかない様を見かねてか、エイがハヅルの腕をとった。
「こちらの馬に乗って」
「しかし、」
見張りの兵を倒すには、彼の剣だけが頼りだ。ハヅルを同乗させていては十全に闘えまい。躊躇う彼女に、エイは続けた。
「ハヅル。今、鳥の姿になれるかい?」
「なれるけど、まだしばらく飛ぶのは……」
戸惑いながらも答える。
疲労がピークに達しているのが自分でもわかっていた。
変化すること自体は呼吸するのと同じように消耗なくできるが、向かい風に乗って飛ぶだけの体力には自信がない。
「飛ばなくていい。人の姿の君を抱いて剣を振るのは無理だけど……鳥の君なら、たぶん懐に入れたまま闘えると思うんだ」
ハヅルは目を瞠った。
「鳥の姿の方が馬にも負担が少ないだろうし。あ、もちろん君は軽いけどね」
何を気にしたのかエイはいらぬフォローをいれて、笑った。