キングサイズのベッドの上で<中編>-1
「隆早くっ! 靴紐なんて気にしてる場合じゃないってばっ!!!」
「んな事言っても…… このままじゃ走りにくくて…………」
「大丈夫ですよ姉様♪ 隆も慌てて転んだりしないでくださいね?」
すっかり日も暮れ夕食を済ませた私たちは、
家路に就くため駅へと向かうも、
「だいたい隆が『ちょっとゲーセン寄ってかない?』なんて言うからっ」
「ちょっ、俺かよっ!? 夏樹姉ちゃんだって『この子可愛い♪』なんてぬいぐるみに夢中だったじゃん」
「だ、だって!!! 可愛いものは可愛いじゃないのよっ!」
「あは、そんな姉様が一番可愛いです♪」
「あ、あのねぇ〜 そもそもは『もう歩けないです』なんてユイが駄々捏ねるからでしょっ」
そんなこんなで寄り道をしてしまっては、
すっかり終電ギリギリの時間となっていた。
「ほら走れ走れっ〜!」
「はぁ…… あ、あんたらは若いからいいけどっ はぁ…… 苦しいっ」
「大丈夫ですか姉様? ユイがおんぶしましょうか?」
「ユイ………… そ、そのセリフは…… はぁ…… 隆の背中から降りて言いなさい?」
やっとの思いで辿り着いた駅のホーム。
構内には最終列車がすでに到着しており、
けたたましく発車のベルが鳴り響いている。
「隆? ここでユイを降ろすです!」
「お、おうっ? 足下気をつけろよ?」
隆が腰を落とすや勢いよく背中から飛び降りると、
トテトテとひとり電車に乗り込むユイ。
「夏樹姉ちゃんも早くっ!」
「わ、わかってる…… はぁ…… なんとか間に合ったね…… はぁ……」
私もまた隆に手を引かれながら、息絶え絶えに列車へと乗り込もうとするも、
突然、目の前に立ちふさがるユイを見ては思わずピタリとその場に足を止めた。
「ど、どうしたのユイ?」
「姉様? 頭で考えるばかりがすべてじゃないですからね?」
にっこりと笑顔でそう告げると、
小さな手の平で背中を押しては、私たちをホームへと着き出すユイ。
──ドアが閉まります。足下にご注意下さい──
ホームに倒れ込む私と隆をよそに、
無情にもアナウンスと共に閉じられる列車の扉。
その向こう側では、いつもの屈託無い笑顔でユイが手を振っている。
遠ざかる最終列車を、呆然と駅のホームに座り込んだまま見送る隆と私。
時刻はすでに十時と三十分を過ぎていた。