パンドラの匣-3
俺は彼女に背を向けて、一歩踏み出した。
何かモヤモヤしたものを感じさせる女の子だ。俺は、彼女から逃げたかったのかもしれない。
しかし、踏み出せなかった。この女子高生が、俺の服の裾を掴んでいたのだ。
「あの……待ってください。お兄さんも、朝、この辺りにいたんでしょう?」
「ああ……知っていたのか」
「お兄さん、目立ちますから。何を、していたんですか?」
「そんなの……ナンパだよ。見てたんならわかってるんだろう?」
「わたしもずっとここに居たんですけど、わたしには声をかけませんでしたね?」
「お前は……この街に”遊び”に来たんじゃないだろう?」
「遊び? 仰っている意味が、よくわかりません」
「俺は、女と遊びたいんだよ」
「わたしじゃ、駄目なんですか?」
小柄な彼女が、眠そうな瞳を俺に向けて、何故だか必死に訴えている。
眠そうというより、元々眼尻が下がっていて、そのように見えるのだ。
そして、その瞳は何かを抱え込んでいる瞳の色だと思った。
俺は何故、彼女の腕を掴んでしまったのか。思わず彼女から目を背けてしまう。
「お前は、男と遊んだりしたことあるのか?」
「……そりゃ、あんまり、無いですね」
街に居がちな垢抜けた感じの少女ではなかった。
髪は綺麗な黒髪で、染めている気配はない。何か高価なブランド品などを持っている訳でもない。
普通の、ごく楚々とした、小柄な少女だった。
ただ、小柄なわりには制服のバストの部分がかなり盛り上がっている。
小動物のような可憐な顔立ちと、その豊満さとのギャップが、男性の劣情を多少掻き立てるかもしれない。
「それなら、お前は、なんでこの街に来たんだ?」
「それは……ナンパされる為です」
「嘘つけ」
「フフ……でも、お兄さんなら、いいかなと思っちゃいました」
「ハァ? 何がだ?」
「まぁ、いろいろ、です」
「どうでもいいが、俺はメシ食いに行きたいんだ。じゃあな」
「それなら、わたしも行きます!」
「……勝手にしろ」