続no title-2
16人。
この1時間で殺した人間の数だ。
皆、無価値に等しい存在なのに、なんでそんな呑気に生きることが出来るのか、自分には理解不能である。
「あ」
人を見付けた。3人もいる。次こそ自分が誰なのかを教えてくれることを、心底、祈った。
「君達」
呼び掛けると、その3人はこちらを振り向いてくれた。
8人目を殺した時に包丁は折れてしまったが、自分の血まみれの服装を見て、3人の少年は、凍てついたように、生きる以外の行動を停止した。
「ねえ、」
ゆっくりと、意味のない人間でも分かるように、ゆっくりと言う。
「知らないかな、この子？」
さっきまでやったように自分を差して尋ねる。
「え？」
「こいつだよ、こいつ。分かんないかな？」
さっさと理解しろよ。
「お前、自分が誰か、分からないってのか？」
「そうそう。そーだよ。だから聞いてんの。誰なのかな、こいつ？」
「………」
3人は、滑らかではない動きで互いに顔を見合わせて、
「知らない」
と、3人の内の1人が言って、そいつはその直後、噛み千切られた頸動脈から、噴水ならぬ噴血を吹き出した。
「ええっ！ええっ！」
と騒いでいる奴には、チョキの形の手で眼球を破壊する。
最後に、声も出ないのか、ただ震えるだけの奴には手頃な石を拾って殴打した。
途中、脳みそがドロリと溢れたが、さらに5発殴ってやめた。
「あー」
ふと見上げると、カーブミラーに写った自分を見つけた。
「っとに、誰なんだよ！一体お前はさ！」
答えは、意外なところで出てきた。
「さ…殺人鬼め…」
「…えっ？」
先程、目を潰した奴がそう言った。
「なんだっ、て？」
近づいて、尋ねる。
「う、わ！寄るなぁ！殺人鬼めえ！」
彼は周りが見えないのにも関わらず、必死に自分から遠ざかろうとした。何かが氷解した。
不安が撤回して、
全てが倒壊した。
やっと分かった。
自分が誰なのか。
「ありがとう」
目が無い彼に、自分は手を差し延べる。
相手を抱き締めるように、愛撫するように、指を首に絡ませる。
「嫌だ嫌だ！止めろ！離せ！殺すぞ！消えろ！失せろ！てめぇ！糞が！死ね！止めろ止めろぉ！」
彼は脅えた表情で呪詛を吐き、
「ありがとう。何と言ってこの気持を伝えたらいいのかな。言葉に表せないくらい、君には心から感謝してるよ」
自分は安らかな表情で謝辞を述べた。
首に圧力をかける。
彼は恐怖のあまり、潰れた眼球を守る為のまぶたから、涙を流していた。自分を祝福してくれている。
そう思った。
彼は絶命した。
「そうか。簡単だったんだな」
殺人鬼。
それが自分の存在。
人を殺す、鬼。
殺人鬼。
人を殺さない殺人鬼なんて、殺人鬼じゃない。
だから殺さないと。
自分の意味を失わない内に。
殺して殺して殺しまくらないと、世間に
「あいつは殺人鬼だ」
と認めてもらえない。
他人に認めてもらえない存在価値など、無いに等しい。
人間は誰かに認められるために存在するのだ。 他人に、そして自分に。賭けがえのない誰かのために、自分は人を殺す。
「みんな、ぼくはここにいるよ」
これは全ての人間が心の奥底で無意識に叫んでいる言葉であり、
自分が人間だったころの最後の言葉だ。
了