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生ぬるい外気に身を晒し、上を見上げると、とある部屋の電気が消えた。
よし、任務完了。
俺はニヤリと笑って携帯をポケットにしまった。
代わりに煙草を出して火を点ける。
煙草の先端がジワッと赤く光るのを見つめながら、雲がかった夜空に煙を吐き出した。
まったく、世話の焼ける奴らだ。
そう言って、俺は電気が消えてしまった広瀬のアパートに再び視線を移す。
俺の友達の広瀬と羽衣。いつも3人で集まってくだらない話で盛り上がり、一晩中カラオケで騒いだりの、気心の知れた仲間だった。
高校時代から始まった男女を超えた友情は、変わらないと思っていたけれど、3人一緒に過ごすうちに俺はすぐに広瀬の変化に気付いた。
単純バカの広瀬を見てりゃ、羽衣に惚れてるってのは一目瞭然だった。
女とロクに話さない広瀬が、羽衣の前でだけやけにはしゃぐわ、目で姿を追うとこを見てりゃ、バカでも気付く。
でも、広瀬はそれをなかなか認めようとしなかった。
逆に羽衣は気持ちがよく読めなかった。
広瀬と一緒にいれば、声のトーンがやけに高いし、俺と一緒の時にはやたら広瀬の話題が出てくるもんだから、てっきりコイツも広瀬を好きだと思っていたが、ある日突然別の男と付き合いだしたからだ。
誰が誰を好きかというのは、すぐわかる俺だけど、今回ばかりは俺のカンが外れただけか、と思っていた。
しかし、こういうカンはまず外すことのない俺は、それがどうにも腑に落ちなくて、羽衣の気持ちを密かに疑っていた。
そんな状態に、一石を投じることが起こる。
ある日、広瀬がバイト先の一つ下の女に告白したんだ。
親友が幸せになるのは、素直に嬉しいこと。
羽衣一筋だった奴が他の女に目を向けるとは、進歩だなと褒めてやったまではよかったが、その女の写真を見せられた時は、何とも複雑な気持ちになった。
と言うのも、その女の姿かたちが羽衣とやたらかぶっていたから。
背が小さくて、痩せ型で、気の強そうな猫目顔で。
何だよ、結局羽衣のことを吹っ切れてねえじゃんか。
羽衣とおんなじ系統の女に告ったのを想像すると、やけに胸が切なくなって、本当に羽衣に想いを伝えなくていいのか? と、何度も念を押した。
羽衣の身代わりにされちゃあ、その女だって気の毒だろ、と。
それでも奴はあくまで羽衣との友達関係は壊したくなかったらしい。
ただ、最後にポツリと“初めての相手は羽衣がよかったけどな”なんて冗談めかして言った広瀬を見た途端、俺のおせっかい虫がむくむく沸いてしまったのだ。