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部屋に入るなり、急に呼び出したことに対し、俺を非難めいた目で睨む羽衣。
「まあまあ、広瀬のめでたい門出なんだから、そんな顔すんなよ」
俺がニヤニヤした顔で羽衣にそう言うと、一瞬呆然とした顔になって、
「え、門出って……」
と、横に座る広瀬を見つめていた。
広瀬は広瀬でこの後の展開を期待でもしているのだろうか、少し赤い顔で
「告ってOKもらった」
と、俯いて言った。
その時の羽衣の顔ったら。
目を見開いて信じられないといった顔のまま固まったかと思えば、
「……よ、よかったじゃん。おめでとう広瀬」
と、上擦った声であくまで平静を装おうとしている。
こうも俺の読み通りの展開になると嬉しくてたまらない。
ついついにやけてしまう顔をなんとか引き締めていると、羽衣とバチッと目が合った。
すっかり泣きそうな顔になってしまってる羽衣。
慌てて奴は目を逸らしたが、その表情でお前の気持ちは全て読めたよ。
待ってろ、羽衣。すぐにお前の望んだ展開にしてやるよ。
俺はニヤニヤ笑いをなんとかこらえながら、煙草を灰皿の上にポンと落とした。
「いやあ、これで広瀬にもとうとう彼女ができちまったか」
俺が再び煙草をふかしながら、白々しくもそう言うが、羽衣の顔は晴れないままだった。
微妙な空気がどんより俺達を煙草の煙とともに白く包む。
そんなことお構いなしに俺はさらに続けた。
「でもさ、お前女と付き合うの初めてだろ? そこら辺大丈夫なの?」
「何がだよ」
「だから、デートとかイベントの時とかうまくリードできんのかなあってことだよ」
「あー……」
戸惑う広瀬は、俺の思惑など知らないままに横目で羽衣を見る。
そして、広瀬と羽衣が目が合うと奴は、
「そうだよ、そういうのは羽衣に聞けばいいんだよ。曲がりなりにも女なんだし。なー、羽衣ちゃん。これから女心って奴をレクチャーしてくれよ」
と脳天気に言ってから、発泡酒を一気に飲み干した。
コイツは羽衣に男ができた時は、自分の気持ちを知られないよう祝福してきた。
単純バカだけど、そういう時の気持ちの押さえ方は、もしかしたら羽衣より上手いのかもしれない。