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◇
「なんだよ、そんなこと言うならいつものノリで“ヤらせて”って言やいいじゃん」
数時間前の俺は、発泡酒をグイッと飲みながら広瀬に言った。
羽衣を呼び出す前に俺はすでに広瀬のアパートで、告白が成功したとの知らせを受けていたのだ。
「バッカ、言えるわけねえだろ! 一応彼女ができた身なんだぞ」
「そんなん黙ってりゃわかんねえだろ。つうか、羽衣がもし“いいよ”っつったらどうすんの?」
俺がニヤニヤしながら言うと広瀬は顔を真っ赤にさせ、黙ってしまった。
それを見てククッと笑う。
ホント、わかりやすい奴。
俺は、少し傷がついたフローリングに発泡酒をコン、と置いてから煙草に火を点け、広瀬に言った。
「俺のカンなんだけどな、羽衣はお前のこと好きだと思うぜ」
「……んなわけあるか」
「お前、自分のことだから気付かないだけだって。なら、今から羽衣を呼び出す。んで、お前と羽衣がヤレる状況に持ち込んでやる。これでうまくいったら、お前俺に煙草1カートン奢れ。もしダメだったら俺が1カートン奢ってやるから」
俺がニヤニヤしながら煙草を灰皿に落とすと、奴は少し考えた顔をしてから
「……マジか?」
とだけ言った。
広瀬が俺の提案に乗った時点で、内心ガッツポーズをした。
羽衣の気持ちは不確かだけど、ここは俺のカンを信じるしかなかろう。
それに、アイツだって最後に付き合った男と別れて半年は経つ。
そろそろたまってる時に、好きな男に抱かれるチャンスがあったとすれば、必ず乗るはずだ。
俺は、ドッキリでも仕掛けるような胸の高鳴りを隠しながら、羽衣にここに来るようにメールを送った。
◇
案の定、羽衣は夜の9時をまわったにも関わらずやってきた。
玄関を横切る羽衣の髪からは風呂上がりの爽やかなシトラスの香りがした。
風呂に入ってりゃ羽衣もいざヤる時にあまり抵抗はないだろう。
しかもスカート履いてるならより俺の作戦が遂行しやすい。
なんだかスムーズにコトが運べそうな気がした俺は、部屋に入ろうとする羽衣の後ろ姿を見ながらニヤリと怪しく笑った。