淫らなふたりを見つめる目-5
その場所は、教室のあるエリアから電車で20分ほどの場所にある公園だった。川沿いにある公園は広く、市の方針か何かで様々な種類の植物が植えられている。花も木も見ているだけで楽しめるその場所は、昼間は散歩コースとして、夜は恋人たちのデートスポットとして有名らしい。
公園の入口に着くと、もう先に松山が到着していた。濃紺のスーツに磨き込まれた革靴。少し癖のある茶色の髪。松山は父親たちの中では比較的若い。まだ30代のその体からは、いつ会っても溢れんばかりの精力が伝わってくる。
「本当に久しぶりだね。君の方から電話をくれるなんて珍しいな……ああ、食事は済ませた? もしもまだだったら、この近くに遅くまでやっているイタリアンの店があるんだけど」
白い歯を見せて楽しげに笑う松山の顔は少年のように幼く見え、とても中学生の子供がいるようには思えない。年若い社長は会社の女の子たちにも人気があるらしい。きっと影で何人もの女が涙を流していることだろう。
「いいえ、ちょっと食欲が無くて。少しだけ、最初にサトシくんに関係することをお話しておきたいんです」
「なんだか元気が無いみたいだけど、大丈夫? 仕事のことで悩んでいるのかな? 僕にできることなら力にならせてもらうよ」
「ありがとうございます。実は、サトシくんの学校のお友達のことなんですが……」
松山は話を聞きながら、マヤの手をとってゆっくりと公園の奥にあるベンチへと歩いていった。湿った土の匂いと植物が発する緑の香り。まだ寒いというほどではないが、ときおり吹き抜ける風がひんやりと感じられる。
ベンチを軽くハンカチで拭ってから松山はマヤに座るように促し、自分もマヤにぴったりと身を寄せるようにしてそこに腰を下ろした。何本かの大きな木の陰になる場所で、まわりの視線がうまく遮られている。
高辻ユタカの話を続けるうちに、松山は眉根をよせて表情を曇らせた。クラス単位でのいじめ、不登校、そして自殺未遂。その衝撃的な話に自分の息子が関係しているとなれば、この反応は親として当然なのかもしれない。
「……という話をユタカくんのお母様からお聞きしたんです。今回の場合は、いじめられる側に良くないところがあったと思いますし、いじめる側にもそれなりの理由があったと思います。サトシくんは特にユタカくんを毛嫌いしていたようなので、もしもチャンスがあればおうちでサトシくんに少しお話を聞いてみていただけないかと思って……」
「なるほど。ただ、あの年代の子供たちは親の言うことなんて聞きやしないと思うけどね。でもまあ、理由はどうあれ……万が一、サトシが原因で誰かが本当に死んでしまうようなことになったら辛いのは本人だもんなあ。うーん、様子を見て一度話してみるよ」
「ありがとうございます。お仕事でお疲れのところ、こんなことお願いして申し訳ありません」
「いや、いいよ。むしろそういう話が学校側からなぜ出てきていないのか、そっちのほうに不信感を持ってしまう。これからも何でも言ってくださいよ、先生……ところで」
松山がマヤの肩に手を回し、自分の方へと抱きよせた。大きな手が細い肩をつかむ。耳元に唇がよせられる。熱い吐息。小さく囁くような声。人の良さそうな表情は影を潜め、サディスティックな笑みが浮かぶ。
「いつまで先生ぶってんの? そんな硬い言葉でオハナシするためだけに僕を呼び付けたわけじゃないんでしょ?」
「あっ……」
あいているほうの手がジャケットのボタンを外す。シャツの上から下着を着けていない胸に触れる。そのふくらみの尖端を強く抓られる。体が痺れる。スカートの奥はすでにぐっしょりと濡れている。マヤはもう動くことができない。