林檎の華-1
夕暮れ迫った校舎の隅っこに私は何人かの女の子たちと一緒にいた。
「じゃあ、これから裁判よ、被告人は万引きをしましたか?」
そんな事はしていない。
ただ、この人たちから逃げる事ができないように私は胸のあたりを縄跳びでぐるぐる巻きにされて、その両端で後ろに回した手を束ねられている。
私には友達がいないから、帰る頃になるといつもこの連中に捕まってこんな遊びに付き合わされる。
いつまでこんな事が続くのかと泣いても泣いても…
体に巻き付けられた縄跳びが重く感じるようにいつまでもそれは際限なかった。
「したの?してないの?
ちゃんと答えなさいよ。」
私は何も答えなかった。
何を言っても同じ事なのだ。
つまんなくなれば、早く解放される。
何かを受け答えすれば、調子に乗っていつまでも続くのだ。
これは中学生の頃。
私は相良林檎といって、とある温泉町でストリッパーをしている。
今日は二回目のショー…
お客がひとりでもふたりでも入り次第、私たちはステージに出て躍るのだが今日はどこかの慰安旅行で団体さんが訪れていた。
これぐらい入ってもらえれば躍るほうもやはり仕事に張り合いがでるのだ。
ストリップショーの舞台は狭く、中央に花道という通路が走っている。
花道の先には正式に何と呼ぶのか知らないが私たちは「セリ」と読んでる丸いスポットが設けられていて、ストリッパーたちはここに立ち、客席の真ん中で踊って見せるのだ。
乳房を挟み込むように縄を食い込ませた私はセリのところまで引き立てられる。
ぺたりと座り込んだ背中に回された縄の先端を引き絞められたら、きゅんっ…と切ない表情で体を反らせてみせると周りの客たちは一斉に席を立ち、歓声をあげながらステージを覗き込んだ。
相良林檎のSMショーが始まるのだ。
これは私が考案したブラ式の小道具で客の見えないところにマジックテープを仕込んであって簡単に脱着できる。
臨場感を出すためにある程度はキツく締める必要もあるけれど後ろから出てるロープはダミーで実際には絞まらない。
うちの踊り子は三人しかいないので本当に緊縛していたら、次のショーに間に合わないのでこんな物を自分で作ってみた。
「林檎ちゃーんっ!!」
眩しいスポットに逆反射した暗闇に幾重にも私の名が響きわたる。