男同士タイム-1
ケンジ、ケネス共に二十歳。一月のある日。
「こうしてケンジと酒が飲めるようになるやなんて、感慨無量やな。」
「そうだな。しかし、俺たちもつき合い長いよな。」
「ほんまやな。」
ケンジは現在大学二年生で帰省中。ケネスは『Simpson's Chocolate House』の跡継ぎとして、ショコラティエの修行中。二人は、二十歳になって初めて酒を酌み交わすのに、街の小さな居酒屋を選んだ。
「済まないな、ビジネスホテルまで予約してくれてたんだな。」
「ああ。おまえと二人きりで夜通し語り合いたい、思たからな。」
ケンジは少しうつむいて言った。「マユは、どうしてる?」
「健太郎と真雪、二人の育児の真っ最中や。短大の修論は済んだから少しは余裕でたみたいやけどな。」
ケンジの双子の妹マユミは、ケネスと結婚し、十二月に出産したばかりだった。生まれた双子の兄妹はそれぞれ『健太郎』『真雪』と名づけられた。
「いいのか?おまえ、こんなとこで俺と飲んでたりして。」
「マーユに勧められたんや。たまにはケン兄と飲んで、語り合いなよ、言うて。それに、おかんもいるしな。赤んぼの世話は、今日はおかんにも手伝うてもうてるはずや。」
「そうか。」ケンジはジョッキを煽った。「赤ちゃん、二人とも元気なんだろ?」
「お陰さんでな。検診でも異常なしや。二人ともちょっと小ぶりやけどな。」
「双子だからな。」
ケネスも同じようにジョッキを煽った。「おまえは、誰かいい人見つけたんか?」
ケンジは照れくさそうに笑って言った。「こないだ、二十歳の誕生日に告白された。」
「へえ!」
「二年上の先輩。」
「年上かいな。で、おまえつき合うとるんか?その先輩と。」
「う、うん。でも、マユとの恋愛期間が長かったせいで、俺、始めはあんまり積極的になれなかった。」
「『始めは』っちゅうことは、今は積極的になった、っちゅうことやろ?」
「あ、ああ・・・。」ケンジは少し赤くなってまたジョッキを煽った。
「最後まで、いったんか?」
ケンジはだまってうなずいた。
「そうか。誠実なおまえがそこまでの気持ちでおるんなら、真剣なつき合いっちゅうことやな。大切にしてやりや、その先輩。」
「うん。」