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朝日に落ちる箒星
【大人 恋愛小説】

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21.太田塁-1

 珍しく五人が揃って酒を飲み始めた。至と拓美ちゃんは二人で二階にでも行くのかと思っていたのに。
「こうやって五人で酒呑むのも、久々だな」
 至は缶ビールを物凄い勢いで呑みながら言う。俺は至が買ってきた勝沼ワインをコップに少し入れて呑んだけれど、赤ワインというのはちょっと好かない。もう一本の、白ワインにしておくんだったと後悔した。
「塁はさ、フランス行って、今後どうするの?」
 拓美ちゃんに訊かれて俺は、二つのワインの瓶のラベルを見比べるのをやめた。
「えっと、今は師匠の下について絵の勉強してて、将来的にはその人の仕事を日本で手伝えればなって感じ。だから日本には戻ってくると思うよ。成功すれば」
 皆、しーんとしてしまって、俺はもう少しふざけた方が良かったのかと戸惑った。
「すげぇな、塁。俺なんて将来の事なーんにも考えないで天文学科なんて選んじまったよ」
 至は顔を覆っている。確かに、天文学を学んで将来何になるんだろうかとふと思う。
「拓美ちゃんは将来何になるの?」
「公務員」
 さっと出てきた答えがあまりにも漠然としていて驚いた。公務員。
「え、何専攻してんだっけ?」
「犯罪心理学」
 公務員と犯罪心理学の共通点が見いだせなくて、きっとここを突き詰めて話したところで俺の理解の範疇を越えているであろうと思い、それ以上突っ込まない事に決めた。
「矢部君は、何になるの」
 少し頬が赤くなった矢部君は「ほぇ?」とおかしな声を出して、私は、と続けた。
「スクールカウンセラーとか、保護施設のカウンセラーになりたいなと思ってるんだ」
 それは何となく納得がいく答えだった。矢部君のように柔らかい雰囲気を持っていれば、カウンセラーになれそうだ。
「智樹は?」
 手に持っていたビールをテーブルにトンと置き、脚を組み直した。いつ見ても長い脚で腹が立つ。
「できれば大学院まで進んで、バイオ系の研究会社に勤めたい、かな」
「勤勉ですな」
 俺は全然バカにしているつもりはなかったけれど、言い方がまずかったのか、その長い脚で一発蹴りを入れられた。
「高校と違って大学に入っちゃうと、嫌でも将来の事考えなきゃいけなくって、何か焦るなぁ」
 赤ワインをどばっとグラスに注いだ拓美ちゃんがそう言うので「大学辞めて、適当に仕事するってのも一つの手ですよ」と進言したら「みんながみんなお前と同じような進み方をしないんだよ」と智樹に言われた。確かにそうだ。普通は大学に行って、もしくは高校を卒業して、就職するんだ。俺が選んだ道がアブノーマルなんだなと思い知らされる。
 適当にパラパラと話しはじめたら、やっぱり拓美ちゃんと至は二人の世界に入り込み、空き缶と空き瓶がどんどん増えていく。潔い。
 俺は一杯目の赤ワインで失敗したから二杯目は白ワインにしたが、味はよくてもワイン自体が苦手らしく、すぐに酔いが回ってくるのが分かった。それでもまだ、意識ははっきりしている。
「お前、酔ってんだろ」
 余裕綽々の智樹にそう言われ「ワインは苦手だわ。俺フランス帰れない」というと、智樹も矢部君もどっと笑った。こいつらの笑顔っていいな、そう思って、俺も笑う。また師匠に頼まれて、日本に来るかもしれない。だけど暫く戻らないかも知れない。今度会う時は、この二人は仲良くやってるんだろうか。俺が日本に戻ってきたら、矢部君は俺と智樹、どっちを選ぶんだろうか。智樹に決まってるよな。会えない時間は愛を育てない。愛は会って触れて育てる物だから。
「お前ら、仲良くやれよ」
 柄にもない事を、柄にもない雰囲気で言ってしまって、目の前の二人は固まっている。
「何それ」
 智樹がビールの缶を口に押し当てたまま言う。
「俺は、お前らが好きだ。だから、頼むから仲良くやってくれ。俺はどっちも好き過ぎて選べないからな」
 酔ってるな、こいつ、と智樹が矢部君を見て二人して笑っている。それでいいんだ。二人が見つめ合って笑ってれば、結局それが一番いい形なんだ。俺はソファに寝転がった。一瞬、矢部君の髪の間から、きらりと光る物が揺れた。
「矢部君のピアス、随分素敵なもん、つけてるなぁ」
 矢部君はピアスを指でつまみながら「二十歳の誕生日に貰った」と言いながら智樹を見たので、俺はもうお腹いっぱいだった。そのままソファの上で寝返りを打って、少し眠る事にした。
 いきなり、矢部君とキスをしたあの瞬間がフラッシュバックして、あの行動は正解だったのかどうなのか、一頻り悩んだ後、眠りに落ちた。


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