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朝日に落ちる箒星
【大人 恋愛小説】

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12.矢部君枝-1

 さっきの講義は何だか眠くて眠くて、ふねをこいでしまった。途中、隣に座っていた拓美ちゃんに起こされなかったら、きっとずっと寝ていた。今日の定食はちょっと量が多かった気がする。だから満腹で眠かったんだ。今も眠い。
 昨日、智樹に「おやすみ」メールをしたのに返信が来なくて、暫く待っていたら携帯を握りしめたまま寝てしまっていた。今日は実習だったのか、昼食に顔を出さなかったから、昨日メールの返信が無かった事を話せなかった。
 ふらふらの頭で帰り支度を済ませ、講義棟を出ようとしたところで、白衣を着た女性に出くわした。
 一瞬誰だか分からなくて、だけど向こうはこちらの事を分かっている様に笑みを浮かべていたので、はたと足を止め、「星野さん」と声に出した。
「こんにちは。名前を知らないんだけど、久野君の彼女でしょ」
 私はこくりと頷く。そうだ、名前を知らないのか。しかし名乗る必要性も見つからなくて、そのまま通り過ぎようとした。
「ちょっと待って」
 腕を強い力で掴まれ、私は前のめりに倒れそうになった。
「な、何すんの」
 彼女はまるで空っぽな瞳に、むりやり両端をつりあげたような口を張り付けて笑っている。
「昨日の夜、久野君の家に泊まったの」
 ドクン、一度心臓が大きく脈を打った。
「あなた、まだセックスしてないんだってね。彼、我慢できなくて私としちゃったんだよ」
 次は心臓だけじゃない。膨らんで潰れるだけの肺までがおかしな動きをして、私は空気を欲した。窒息しそうな位苦しかった。智樹がセックスをした、だって?星野さんと?何故?私が昨日、出来なかったから?その場で叫びだしたいような気になって、目を見開いて、それでも叫び声も上げられなくて、私はもう彼女の目の前から姿を消していた。
 気付くと走っていた。苦しいのに走るから、もっと苦しくて、そのうち涙が溢れてきてしゃくり上げるから、もっともっと苦しくて、どうして私ばかりこんなに苦しい思いをするのだろうと思うと、もっと泣けてきて、悪循環だった。結局、駅前までずっと走り続けていた。



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