『tetsu』-2
「毎日仕事ばっかりでどこにも遊びに行ってないし…。来週も研修で、私一人だよ。まぁ最近は一人の方が楽だけどね。」
「あっ、西山さん来週研修かぁ…。そっかぁ。じゃぁさ一緒に旅行行かない?」
私は耳を疑った。彼が私を旅行に誘ってる。こんなことあっていいのだろうか。
「冗談でしょぉ!私と行くために用意した旅行じゃないのに悪いよ。私今お金ないし、旅行なんて行けないって」
私は思ったことと反対のことを口に出していた。素直に行きたいなんて言えるわけがない。
「でもキャンセルして金取られるぐらいなら、誰かと行って楽しんだ方がいいじゃん!ちょうど西山さんもいないんだしさ!」
「私じゃなくても他に誘う女の子いるでしょ〜。」
私は物凄く嬉しかったが、素直にイエスと言わず健気な女を演じていた。
「それに西山さんにバレたら、武田さん殺されちゃうよ!」
「バレないようにするって!二人だけの秘密にすればいいじゃん!今日会ったのも何かの縁だしさ!」
私は二人だけの秘密と言われてドキドキせずにはいられなかった。そんなことを言われたら、何かしら期待してしまう。
「ほんとに私なんかでいいの?」
「いいよいいよ!お金のことも気にするなよ。俺も旅行に行きたいんだから。楽しもうな!」
彼と旅行なんて、もう死んでもいいぐらい嬉しかった。彼が私を誘ってくれたのがただの気まぐれでも、私は喜ばずにはいられなかった。
そして、彼とは携帯の番号とメルアドを交換して、その日は別れた。
その日から彼と私は毎日メールをした。待ち合わせの場所や行き先の話。私の彼氏へのアリバイ工作など、いろんな話をした。
でも私は嬉しい反面、考えることもたくさんあった。彼は何とも思っていない女と二人で旅行に行くだろうか、あの日偶然会ったのが私じゃなくても誘っていただろうか、彼に下心はないのだろうか…。私は自分にプラスのことばかり考えていた。彼と普通のメールをやりとりしているだけなのに、私の体は熱くなった。彼が何の思いもなく打ったメールを見る度、私の想像は膨らんでいった。
つい右手が胸へ伸びる。私の小さな掌に収まってしまうぐらいの胸だが、最近の私が一番敏感な所だ。自分の指を彼の指に置き換えて想像する。自然と私の乳首は固くなっていった。私は左手を太股の間にもぐらせその奥の割れ目をなぞった。下着を横にずらし指をすべらせると、もう私の指ぐらいするりと入ってしまうぐらい、私の秘部は愛液を流していた。人指し指、中指と指を入れていく。右手を胸から下の方へ移動させ、敏感な部分を転がすように触れる。私の快感はもう限界寸前だった。私は小さく声をあげ、その瞬間全身の力が抜けていった…。
自分を慰めた後は、いつも自己嫌悪に陥ってしまう。こんなことで私の欲求は満たされないのは自分でよく分かっているからだ。この溢れそうな欲求を満たすことができるのは、彼だけなのだ…。
旅行の日が来てしまった。私は彼との待ち合わせの場所に向かった。時間より少し早く着いた私の心臓はまた激しく動き始めた。普通に接するために心を落ち着かせようとした時、彼は現れた。
彼は細身のジーンズに黒のTシャツ、そして長袖のシャツをはおっていた。胸には小さなプレートがついたネックレスが揺れている。彼のほっそりとしているのに筋肉がほどよくついている体や、彼の服装、アクセのセンスなどは全て私のタイプそのままだった。そんな彼が今私の隣にいる。
私はまだ彼を凝視することはできなかった。彼の目を見ると私が理性を失ってしまう気がしていたから…。そんな私を彼には見られたくない。
私たちは車に乗り、目的地へと向かった。車の中でジュースを飲んだり、お菓子を食べたり、普通の恋人達のような時間を過ごした。
「煙草いつから吸ってるの?」
「ん〜、高校卒業するぐらいからかなぁ」
「やめないの?」
「やめれるなら、やめてるって(笑)恋愛と一緒なようなもんだよ。好きになったらどんどんはまっていって、抜けられないってとことか。」
「え〜意外!武田さんでもそんなこと言うんだ。」
「意外ってなんだよ!俺はいつも恋愛には真面目だぜ(笑)でもなんでかいつも振られちゃうんだよなぁ…」
「……」
「やぁ…。俺が悪いんだろうけどな。」
「そのうち武田さんに付いていきます!って人が現れるよ。武田さんはちゃんと相手のこと考えてると思うよ。機嫌悪い時や、悲しい時、嬉しい時が顔見ただけで分かっちゃうような単純なとこもあるけど、それだけ素直だってことだし。きっと武田さんのいろんな面を全部好きになってくれる人がいるよ。きっとね」
「……」
私は思わず、彼に対して感じていた想いを口に出してしまった。途中で気付かなかったら、ずっと隠し続けてきた気持ちまで吐き出してしまいそうだった。好き…という気持ちを。