おしおきとご褒美と-4
佐伯には先妻との間に娘がいた。まだ大学に在学中、子供が出来たことがわかってあわてて入籍したらしい。両方の親も親戚も当然のように大反対したが、燃えあがらんばかりの恋愛感情と親に対する反発心とで駆け落ち同然の生活が始まった。
ただ、両親の援助が受けられない生活は経済的に厳しく、すぐに喧嘩が絶えなくなった。結婚して3年もすれば、妻への愛情などきれいさっぱり無くなった佐伯だったが、逆に娘への愛情は異様なほどに高まった。積極的に育児に参加し、妻がフルタイムで働き始めてからは保育園の送迎から食事の支度まで、娘のことに関してはほとんど佐伯がやるようになった。
そうなると娘の方もどんどん佐伯に懐いてくる。それに伴って妻は家庭にいる時間が短くなり、佐伯と娘のふたりだけの時間が増えた。佐伯は幸せだった。娘のためならどんなことでもしてやれると思った。
可愛さのあまりに、佐伯は眠るときでさえ娘を離そうとはしなかった。ふたりの間にあるものは洋服でさえ邪魔な気がした。だから娘を裸にして、自分も裸になって同じ布団で眠った。妻はそれを以上だと罵ったが、佐伯は特に気にもしなかった。
可愛い、可愛い、娘。夜毎にその体を舐めまわすようになった。娘はくすぐったがって、ケラケラと声をあげて笑った。佐伯はそれさえも嬉しくて、首筋から平らな胸、まだつるりとしたその割れ目までをぺろぺろと舐め続けた。そうしながら、興奮し、勃起し、射精した。おかしいとは思わなかった。何故かと言われてもわからない。
娘が小学校二年になった年、佐伯はとうとう我慢できなくなって娘のまだ幼い体に覆いかぶさった。自らの男根を娘のその部分に挿入しようとした。痛みに泣き叫ぶ娘の声に、普段は寝室を別にしていた妻が飛んできて、娘を奪い取り、その場で離婚を宣言した。
「あなた、自分が何をしているかわかっているの!?」
絶叫にも似たその声が、いまだに耳にこびりついて離れないという。
その後、妻は娘と共に実家へ戻り、佐伯と娘に何があったのかは娘の名誉のために一生の秘密として墓場まで持っていくと泣いた。最愛の娘を奪われて、佐伯は自暴自棄になったが、事情を察した実家の両親と祖父母が佐伯に救いの手を差し伸べた。
親族がいくつか経営している会社のひとつで雇ってもらえることが決まり、その後は自分の手腕で社長の地位に駆け上がった。娘に向けていた情熱も愛情も、すべて仕事に注ぎ込んだ。その途中で、現在の妻と結婚し、タケルを授かり、もう会わせてももらえない娘への思いを忘れかけていた頃になって、マヤと出会った。
マヤは、まだ幼かった娘の面影によく似ているのだそうだ。
「可愛いよ、マヤ……パパが、気持ち良くしてあげるからね……」
現在の妻は先妻や娘との経緯を何も知らないらしい。佐伯と初めての夜、寝物語に聞かされた話。同時にマヤも自分の抱えているものをぶちまけた。壊れた人間同士の、歪んだ関係。それは何処にもたどりつくことがないと知っているのに、お互いを惹きつけて離さない。
嫌悪感など無い。幼児性愛が、近親相姦が、いったい何だというのだろう。現実の闇の深さに比べれば、そんなものはどうでもいいことに感じられた。少なくとも体の一部を繋ぎ合せているこの瞬間は、佐伯のことが愛しくて恋しくてたまらない。