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ユートピア〈待ちわびた世界〉
【サイコ その他小説】

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ユートピア〈待ちわびた世界〉-1

何の感慨も無かった。
卒業式を迎えても、同級生の泣き顔を見ても、俺には何の感慨も無かった。確かに楽しかった。どうしようもない馬鹿な友達と、どうしようもない馬鹿な毎日。そんな高校三年間は、人並み以上に満喫したと言えるだろう。けれどそれよりも輝かしいものが、この先、待ち受けているとしたら俺は立ち止まっている暇などない。ましてや振り返って泣くなんて。
『以上、校長先生の言葉でした。これをもちまして卒業式を閉会いたします。』
司会者が式を終わらせた。直後、隣の席で眠りこけていた三波が話し掛けてきた。
「おい、今日の夜十時に俺らだけでパーティーするってよ。」
「どこで?」
「学校で。」
「大丈夫かよ?」
「知らねぇ。」
三波は邪悪な笑みを見せる。なんて素敵な微笑み。
「誰が発案?」
「知らねぇ。」
この無計画さ、俺、大好き。
「もち、行くよ。」
「そうか、これで十人は来るな。なんか壮大な催しがあるらしいぞ。」
ほぉ、良いねぇ。この怪しさ、良いねぇ。知らず頬が緩む。その顔を見て三波は言った。
「その邪悪な笑い顔、良いねぇ。」


 空は満天の星空。暖かくなってきたと言っても、十時にもなると流石に寒い。家族には告げず、夜の校舎に向かう。多分三年生の教室で騒いでいるのだろう、見上げると四階の一室だけ電気がついている。途中、職員室の前を通ったが、誰もいなかった。階段を上り、四階に向かう。昼間の喧騒もなく、うすら寒い校舎には不気味な気配が漂っていた。四階につくと、笑い声が木霊していた。もうできあがっているようだ。三年一組のドアを開けた。
「おぉい、間宮ぁ、遅いぞ。」
酒くさい。かなり酒くさい。
教室には男女合わせてニ十人強の悪友が集まっていた。時間は十時十分前。それなのに相田は酒くさい。
「間宮が来たところで全員揃った。改めて乾杯しよう。」
元学級委員、佐藤が乾杯の音頭をとる。
「えぇ、みんな。よくぞ高校生活を乗り切った。今日は面倒くせぇ事は全部忘れて、パァーと騒ごうぜぇ!かんぱーーーい。」
かんぱーい。
それぞれ思い思いに教室内に散らばる。あちらでは一気飲み大会。こちらでは猥談。マージャン。
時間は十時をまわった。
「間宮君、ちょっと携帯かしてくれない?」
斉藤が話し掛けてきた。女だてらに酒に強いという事実が、先程の一気飲みで実証された。
「どうしたの?」
「電池切れちゃって。家に電話しておきたいから。」
「分かった。」
そう言って携帯を彼女に渡す。その瞬間、教室の電気が消えた。
「なんだ?」
「誰だ?電気消したのは?」
教室内がざわめきだす。
キーンコーンカーンコーン
それは授業開始のベル。誰もが言葉を失った。そして始まる放送アナウンス。
『皆様、今日はようこそお集まり頂きました。』
凍りついた空気は、更に凍てつく。その声は、異様に高い。変声機で声色を変えているのは、誰の耳にも明らかだった。
『最後の授業を始めましょう。』
「だ、誰だよ。悪戯が過ぎるぞ!」
おそらく佐藤の声。恐れのあまり、声が裏返っている。
『皆様には、今日をもちまして卒業してもらいます。ここから、卒業してもらいます。』
意味が分からない。俺たちは、既に卒業式を済ませた。
『貴方達は、この学校から旅立つ資格がありません。』
「なんだと、ゴラァ!」
誰かが怒鳴る。けれどその対象が、ここにはいない。
『その代わりこの世から旅立ってもらいます。』

――― 死んでいただきます

ゾクリ、と嫌な汗が背中を伝った。ヤツは言い切った。その穏やかな口調で。


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