もうひとつの朝-1
アオイが慌てふためいて王たちと朝食を共にしている頃、さほど時差のない人界も朝を迎えていた。
「・・・・・っ」
右手で顔を覆って状態を起こしたのは九条だ。はだけた衣を整えて窓の傍へ立つ。
「・・・見つけた・・・葵」
葵が覚醒したことにより、九条が彼女の夢の中に入ることができるようになった。彼女自身もわずかながらに人界の記憶を取り戻しつつある。
喜びもつかの間、とぐろを巻いた不快な感情が沸々と湧き出した。
「・・・あれが異世界の王・・・
キュリオ、エクシスの他にもうひとり隠れていたな」
苛立ちを隠せず、聖剣を召喚した九条は王宮の上空を舞いあがる。彼の一撃は天を裂き、雲を退け、わずかな朝の光が大地を照らす・・・。
王のいない人界に光をもたらすことなど不可能だ。神官の力で世界を支えていても、急速にこの大地は衰退している。
九条の一撃に神官の誰もが気が付き、空を見上げた。
「・・・九条のやつ、朝から荒れてるな」
「葵様の存在を確認してなおさら、・・・もどかしいのでしょう・・・・」
それぞれ自由に食事をしているなか、九条が戻ってきた。深くため息をついて仙水の淹れた飲み物を口にしている。無言のまま外を眺めている九条の目の前に大和が座った。それを横目で確認すると、九条は静かに口をひらいた。
「・・・葵に逢えた」
「・・・・なにっ!!!」
離れて座っていた他の神官たちも九条の元へ走り寄った。
「・・・異世界の王にも・・・な」
「・・・・・」
「異世界の、どの王が・・・?」
蒼牙が身を乗り出して九条に問う。
好奇心というより、把握しておかねばならぬことだと認識しているようだ。
「葵を育てたというキュリオ、・・・千年王のエクシスか・・・。もうひとりいたが、姿が見えなかった」
「九条、キュリオ殿にお礼を言わなくては・・・」
「笑わせるな。
俺もやつらも・・・殺すつもりで戦った・・・が、邪魔が入った」
「そんな・・・・」
気持ちの優しい仙水は悲しそうに目を伏せた。育ての親のキュリオから、良いかたちで葵を引き渡してもらおうと考えていた彼には望まないことだった。