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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第3話-6

暫くして視線を彼の方に戻すと、英里は再び、圭輔の顔にゆっくりと自分の顔を近づける。
端整な彼の顔立ちを間近で見つめるだけで、息苦しくなる。
圭輔の手を取り、指を絡ませる。
もう片方の手はそっと彼の頬に触れ、感触を確かめる。
それから、英里は目を瞑ってもう一度口付けた。圭輔も、目を閉じる。
静かで、長いキス。
なのに、絡めた互いの指だけが、何度も解けてはまたゆっくりと絡み合い、その様子が少しだけ淫猥だ。
口付けたまま、圭輔は今まで英里の髪を優しく梳いていた手を、そっと胸の上に重ねた。
彼の手が胸に触れた瞬間、英里の体が震えたが、そのまま彼の行為に身を委ねる。
唇を離した瞬間に微かに漏れた、彼女の吐息が、完全に彼に火を点けた。
胸の上に重ねていただけだった手を動かし、その膨らみを服越しに揉みしだく。
英里は、恥ずかしくて伏し目がちだった視線を圭輔の方に移すと、もういつもの穏やかな教師の表情ではない、そこには男の顔をした彼が居た。
内腿の間に、微かな違和感が生じる。それが性的な昂ぶりだとは、英里はまだ気付かなかった。そこまで、性的に成熟していなかった。
もう、陽が落ちかける寸前、部屋の中を暗闇の割合がどんどん占めていく。
圭輔の手が英里の太腿に触れる。
その瞬間、

“体の相性”

ふと、あの時の友人の言葉が何故か彼女の頭を過り、途端に、不安に覆いつくされる。
あの時が初めてだった自分に、彼を満足させられたなんて到底思えない。
これから体を重ねていって、もし失望されたとしたら、いずれ…
(先生は…私の事、飽きてしまうんだろうか…)
そんな考えが浮かび上がると、高揚していた気分が、一気に地に落ちるような感覚が襲った。
急に、部屋の隅の一点を凝視したまま固まってしまった彼女に、圭輔は怪訝そうな顔をする。
「英里…?」
声を掛けられて、はっ、と、彼女の瞳の焦点が定まる。
「せっ、先生…!あの…私、そろそろ帰らないと…」
英里は早口でそう言いながら、乱れかけた着衣を直すと、突然立ち上がった。
「もう、帰るのか…?」
「ごめんなさい、なるべく早く帰ってくるように母に電話で言われていたので…」
「そっか…もう暗いし、送って行こうか?」
明らかに残念そうな声音を含ませてはいるが、圭輔は何とか微笑んでみせる。
「大丈夫です、それに、万が一誰かに見られたら困りますし…」
学校帰りならまだしも、休みの日に私服で会っている所を、もし誰かに見られでもしたら、言い逃れはできない。
「じゃあ、また明日…」
「あ、あぁ。気を付けてな」
ぎこちない愛想笑いを互いに浮かべて別れを告げた後、ドアの向こうへ彼女の姿は消えた。
それをきっちり見届けた後、圭輔は盛大に溜息を吐き、玄関の側で頭を抱えて座り込んだ。
「…生殺し…」
思わず、愚痴っぽく呟いてしまうのは、彼女の温もり、髪の匂い、息遣い、感触がまだ残っているからだろうか。
欲望を自己処理する気も起きず、彼は部屋に戻ると、食べかけだったケーキを再び口に運び始める。
確かに、今日は自分にも性急すぎるところがあった感は否めないし、両親が彼女の行動に関して更に干渉してくるようになった原因の一端は彼にもあるので、ああ言われると強く引き止められない。
本当は、彼女を無理矢理にでも押し倒して存分に愛し合ってからでないと、自分の腕の中から離したくなんてなかった。
…何て事は現実に出来るはずがないから、せめて妄想で彼女を抱く。
生々しい妄想をしながらだと、甘いケーキも何だか口にした事のないような食べ物の味のように感じられる。
ちゃんと彼女が居るというのに、もう3ヶ月以上も関係を持っていない。健全な男には酷な話だ。
机の上の箱に目を向けると、ケーキはまだあと8つも残っている。
彼はまた違う意味で溜息を吐いた。

6時を過ぎると、辺りはもう真っ暗で、夜風が冷たい。
まだ少し火照った体と重い気持ちを引き摺り、英里はひたすら駅へと急いだ。
あのまま、彼といれば、きっと体を合わせていただろう。途中までは、それでもいいと思っていた。だが、不意に怖くなって逃げてしまった。
(だって、2度目なのに…)
変わらず未熟なままの自分は、彼に応える自信がなかった。
体の相性というのを良くするには、どうすれば良いのだろう。
自分も、相手を満足させられるようにそれなりの知識を身に付ける事?自分の体を磨く事?
わからない。考えても考えても掴み所がなく、ますます深みに嵌ってしまいそうになる。
…3ヶ月前、確かに触れ合った2つの体。
その時は、彼にだいぶ近づけたと思っていた。
でも、それはまやかしなのかもしれない。
今だって、彼の事はほとんど知らないし、自分はよくわからない事でいちいち悩んでしまうのだから。
真に2人が近づける日なんて、本当に訪れるのだろうか…。
英里は、細い溜息を零して、帰路を急いだ。



「えー、今日の日直は……水越さん」
翌日の数学の授業終了後、突然教壇から圭輔に声を掛けられて、英里は焦ったように手を挙げて、返事をした。
「先週の数学の課題、後でクラス全員分集めて、職員室まで持って来て下さい」
「…はい」
そう言い残すと、彼は、教室を後にした。
「英里、1人じゃ大変でしょ?手伝うよ」
「いいの?ありがとう」
「いや、ホントは英里のためっつーより単に先生に会いたいだけなんだけど」
「…はぁ?」
「だってー、圭輔先生カッコ良いんだもーん!職員室なら堂々と話もできるしさ。さっきも頼まれた時、代わって欲しそうな子いっぱいいたよ?」
「わざわざ雑用してまで先生に会いたいなんて、私には理解できない…」
「圭輔先生だけ特別だよ。何か本気で先生のことが好きな子もいるみたいだし」
「え…」


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