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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第2話-11

うっかり、また圭輔のことを先生と呼んでしまい、英里は口を噤む。
そのまま、上目遣いに圭輔の方を見上げた。
「あーもう!そうだよ、俺は君の先生で、水越さんは大事な生徒だから」
…今年の間だけは、と圭輔は心の中で密かに付け足す。
今、高3の英里は、あと1年で卒業だ。
そうしたら、自分はどうするんだろうか。
英里が自分を怪訝そうに見つめている。
突然、隣に座っている英里の肩に圭輔は頭を乗せる。
驚いて、英里は身を硬くした。
さらさらとした圭輔の髪が、肩に触れる。
「少し、こうしてていいか…?」
「は、はい…」
そう言うと、圭輔はまた軽い眠りに就いてしまった。
安心しきって寝ている顔が、何だか無邪気で、いつも堂々とした姿で教壇に立っている彼とは思えない。
きっと、彼のこんな顔を知っているのは学校では自分ただ一人だろう。
体を重ねてから、圭輔との距離が近くなったような気がして、英里は嬉しくなる。
自分よりも5つも年上の男性の頭を慈しむように英里は撫でる。
帰ったら、母に激しく罵られることは免れない。
今まで逆らったことも心配を掛けたこともない自分のこの暴挙に、怒り狂う母の姿が目に浮かぶ。
だからこの際、この幸せな時間を長く感じていたかった。
「…でも、服は着たかったかも…」
圭輔は気持ち良さそうに寝息を立てているので、身動きの出来ない英里は一人、ぼそりと呟いた。

それから1時間後、圭輔が目を覚ますと、今度は英里がいつの間にか眠っていた。
英里の髪を優しく撫でる。
彼女の髪を触るのが、すっかり癖になってしまった。
昨日の淫らな姿が嘘のように、今はいつもの凛とした表情だ。
英里のあんな一面を見た男が自分だけだと思うと、胸の奥が熱くなる。
肌理の細かい、彼女の肩に手を滑らせ、胸元に唇を寄せる。
そして、微かな痕を残した。
それに気付いた時の英里の反応を想像すると、人知れず笑いが込み上げる。
「英里、愛してるよ…」
「…んん?」
耳元で囁いたので英里が少し反応を示すが、目を覚ますまでには至らなかった。
彼女と迎えた初めての朝。今朝の朝食は何を作ろうか…。
料理が隠れた趣味である彼は、いつもの穏やかな笑みを浮かべて、浴室へと向かった。

英里の二度目の目覚めは、美味しそうな香りと共に訪れた。
まだまどろんでいる英里は、欠伸と共に大きく伸びをする。
「あのさ、俺は嬉しいけど…」
台所から出てきた圭輔が顔を赤らめて、あまりにも扇情的な英里の姿に目を逸らす。
「…きゃぁっ!」
慌てて英里は胸を両腕で隠す。
うっかり、自分の状況を忘れてしまっていた。
彼女はせめてもの仕返しに、いつもの皮肉を口にする。
「…夜はあんなに意地悪だったのに、何で今更照れてるんですか?」
「いや、やっぱ昨夜は雰囲気というか、明るいところで見るとまた…綺麗だなぁと…」
朝日を浴びた彼女の均整の取れた体は、確かに美しく、性的な部分を駆り立てられるというよりも、つい見入ってしまいそうになる。
「なっ、な、何を…別に綺麗なんかじゃ…」
自分の憎まれ口が意外な台詞で返ってきたので、英里は逆に動揺させられてしまった。
「ほら、もうすぐ出来るから、シャワーでも浴びてこいよ」
英里は昨夜のタオルを巻きつけて逃げるように洗面所へ行き、素早く身支度を整えた。
洗面所を出ようとした時、鏡の中の自分を見つめる。見た目は、何も変わらない。だが、彼のものになったのだ。下半身に残る違和感。それを実感すると、少し照れてしまう。
「…おはよう、ございます、今更ですけど」
彼女にしては珍しく、髪を2つに分けている。
それに、眼鏡というお決まりの優等生スタイル。
正直、圭輔は無意識のうちに美しさを隠してしまう英里が勿体無い気がしたが、逆にあまり彼女の魅力を他の男に知られたくないと思う時もある。
(…俺って、わがままだな)
「おはよう。もう食べる?」
圭輔は、そう問い掛けると、
「はい、頂きます」
そんな彼の思いを知る由もなく、英里はまだ照れたように微笑んだ。
朝食は意外と純和食。豆腐の味噌汁に鮭の塩焼き、ひじきの煮物、きゅうりの酢の物…やはり、味はとても美味しかった。
「先生みたいな奥さんがいたらいいだろうなぁ…」
英里はひじきの煮物を口にしながら、しみじみと呟く。
「何言ってんだか」
苦笑しながら、圭輔は味噌汁を啜る。
英里は密かに圭輔を見つめる。
昨夜は二人共熱く燃え上がって、淫らに求め合っていたのに、こんなに穏やかな朝を迎えられるなんて不思議だった。
あんなに恥ずかしい姿を曝け出したのに、彼への思いはますます膨らんでいる。
「…どうした?」
急にぼーっとし始めた英里を見て、圭輔は声を掛ける。
呆けているところを見ると、また妙なことでも考えているのだろうか。
「いえ、何でもないんです」
英里は明るい笑顔を圭輔に向けた。
「?」
腑に落ちない顔で圭輔は英里を見つめる。
今日もずっと、先生と一緒にいたい。
英里はその事を口に出そうかと思ったが、やはり気恥ずかしくなり、自分の胸にしまっておいた。



1学期最後の授業の日、圭輔は教壇から英里の姿を目に留めた。
相変わらず、ぼんやりと窓の外を見つめて、授業を真面目に聞いている様子は全く無い。
不意に、英里の目がこちらに向けられる。
一瞬、視線が絡み合う。
彼女は微かに微笑んでいた。
この無機質な教室の中で、自分達の繋がりが感じられて、圭輔は嬉しかった。
英里は再び、視線を窓の外に向ける。
強い日差しが照りつけ、蝉の声が耳に響く。
英里は、夏の爽やかな青空を見上げた。
圭輔の深く、朗々とした声。何故かとても落ち着くのだ。
相手が相手だけに堂々と付き合うことはできない。
だが、もう少しこの秘密の恋愛のスリルを味わうのも良いかもしれない…。



<第2話・完>


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