ビーマイベイベー!-1
見慣れたはずの、わたしの部屋。
見慣れたはずだが、なんだか久しぶりな気もした。
目の前には、わたしがいた。
わたしが、苦り切った顔で行儀よく座っている。
わたしが目の前にいるというのは、従来ではあり得ない話なのだが、本当なのである。
では、今わたしを見ている自分は何か。
鏡などではない。わたしの彼氏のシノブだ。
つまり、シノブの目を通してわたしを見ているのである。
もっと端的に言うと、わたしはシノブになってしまったのだ。
何故こうなったのかは、わからない。
ある朝、目が覚めると、シノブの部屋の天井が見えた。
一瞬、あっしまった、と思った。
よく覚えていないが、わたしはいつの間にかシノブの部屋に来て、してしまったのでは。
シノブとの肉体関係は既にあった。
中学の頃からの付き合いで、既に高三なので、自然といえば自然だ。
週末の昨日、シノブと街でデートをして……そのあとの記憶が定かで無い。
セックスをするのはいいが、覚えていないというのはどういう事なのか。
酒などは、当然飲んでない。
マズイな……シノブの家でわたしが寝ていたら、彼の家族に騒がれてしまうではないか。
一応まだ、高校生である。
家族には、とりあえず健全な交際ということにしていた。
事情がよくわからないが、わたしは早々にここから退出した方がいいのではないか。
家にも何の連絡もしていなかった。心配されているかもしれない。
そういえば、肝心のシノブの姿が見えない。
「ねぇ、シノブ?」
呼びかけても何の反応もない。
彼は、どこに行ってしまったのか。
わたしは、ようやく体を起こしてみる。何か、違和感を感じた。
頭の位置がどうも違う気がする。寝違いでもしたのだろうか。
ベッドから降り、立ち上がった。
あれ。明らかに、何かがおかしい。いつもと、見える風景が違う。
いつもより、だいぶ上からものが見えている。
手足を見た。しっかりとした、長く逞しい手足。胸を触ると、ただ堅い感触があった。
あ。
この体には、覚えがある。鏡を見るまでもなく、シノブの体だった。