ビーマイベイベー!-4
わたしは、そんな彼とは真逆な性格だろう。
真逆だったが、何故か気になり、それとなくつきまとうようになった。
最初はからかったり、ちょっかいを出していたのだが、次第に好意を持つようになった。
中学の終わりにわたしが告白して、なんとなく交際が始まり、高三の今に至る。
「お前のフリをしながら、女として生活しろっていうのか?」
「仕方ないでしょう? わたしだって、男のフリしなきゃいけないんだから」
そう言いながら、わたしはシノブのフリをするのはわりと楽だなと思っている。
だって、この男は口数が少ないんだから、学校でも黙って座っとけばいいのである。
あまり交友関係もないし、彼の家族についてもおおよそ把握していた。
問題は、シノブがわたしのフリを出来るか、という事に尽きた。
わたしは結構よく喋る方で、そこそこの交友関係があった。
無口な男がわたしのように振るまうのは相当に辛いはずで、わたしもそこを懸念した。
しかも、男が女のフリをするのである。
昔のサムライのような性格のシノブに、それが出来るのか、いよいよ不安になった。
「ねぇ、シノブ……そのジャージは何で着てるの?」
「何でって……他に着るものが無かったから」
「明日から学校に何を着ていくつもりなのよ?」
「それは……学校くらい、休んでもいいだろう?」
「馬鹿言わないでよ、わたし皆勤賞かかってるんだから!」
「……くだらない」
わたしは、少しムカッときた。小中高と皆勤賞なのは、さほど何か取り柄があるわけでもないわたしにとって進路上、重要なウリなのである。
シノブにそこを潰されるのは絶対に避けなければならない。
「わたしの制服、ここにあるわ。あと、下着はこの棚の中に……」
「おい、やめろよ、恥ずかしい奴だな」
「明日から着て行けって言ってるのよ! 着け方、わかんないでしょう?」
「いやだ」
「……聞き分けの無い男ね、いいから、そのジャージ脱ぎなさい」
「いーやーだ!」
わたしの中のどこかが、ブチッと切れた。
その瞬間、わたしはシノブの体を(わたしの体だが)取り押さえて、ジャージを無理やり脱がせた。
思えば今のわたしは男のシノブの体なのだ。抵抗されたが、難なく組み伏せる事が出来た。
なんとわたしの腕力の弱いことか。あるいは、シノブの力の強いことか。
シノブは自分の(というか、わたしの)腕力の無さに絶望していた。
そうして、諦めたのか、わたしの指導を受けることになったのだ。
「……さ、これで、大雑把には教えたわ。ブラ、自分で着けられる? スカートは横のファスナー締め忘れたりしちゃ駄目よ?」
「…………」
シノブはわたしの制服を着た姿でプリプリ怒ったまま、何も喋ろうとしない。
「そんなに怒んないでよ、着け方わかんないと困るのはシノブなのよ?」
「明日から、筋トレする。お前、弱すぎる」
「ちょっと、やめなさいよ! それわたしの体なんだから!」
そんなこんなで、シノブとの第一回の打ち合わせは終わった。
まだまだ打ち合わせしなければならない事は多々あったが、一気にやるのは無理だ。
徐々にやっていくしかない。そうしていくうちに、元の体に戻れるだろう。
それを、信じて。