ビーマイベイベー!-2
五分ほど、ベッドに座りこみ、考えてみた。
とんでもないことが起こっている。しかし、わたしは思いの外あまり動揺していなかった。
シノブの体も、部屋も、よく知ったものだったからだろうか。
まず、わたしの体はどこに消えたのか。
目下、一番心配なことはそれであったが、その心配もまもなく消えた。
枕元のシノブの携帯電話が鳴った。
携帯には、わたしの携帯の番号が表示されている。
彼氏の携帯に無断で出るのは少し気が引けるが、これは出るべきだろう。
「はい、もしもし、あの……えーと」
「おい、今そこにいるのは、トウコなのか?」
「あ、じゃあ、やっぱりシノブなのね」
「そうだ。……俺が何故だかお前の体になってるんだ。お前も、そうなのか?」
「そうよ。シノブの体になって、今シノブの部屋にいるわ」
「……信じられない……なんで、こんなことに……」
「そんなの、こっちが聞きたいわよ」
シノブの声には失意と安堵が入り混じっていた。
安堵というのは、シノブの体を彼女であるわたしが保管している形になっているからか。
そういう意味では、わたしも同様だった。
何かの間違いで知らないおっさんと入れ替わりでもしたらと考えると、空恐ろしい事だ。
「で、これから、どうするの?」
「どうって……お前、あんまり驚いてないのか?」
「そりゃあ、知らない人と入れ替わったら驚くけど、シノブだし」
「お前な、俺は一刻も早く元に戻りたいんだよ」
「わたしだってそうだけど、どうしようもないじゃない」
「……はぁ」
携帯から、シノブの深い溜息が聞こえた。
無論本来のシノブの体ではなく、わたしの体が発する溜息である。
シノブは男の言葉遣いだが、女の声になっている。
それはそうだ、わたしの体なんだから。わたしは、その逆だ。
「じゃあさ、今からわたしがそっちに行くわ。打ち合わせ、しましょ?」
「……そうだな、でもなんかお前少し楽しそうだな?」
「こうなってしまったら、楽しんだ方が得でしょう?」
「信じられない奴だな。俺には、そこまで割り切れないよ……はぁ」
「わたしの体で溜息ばかりつかないでよ。幸せが逃げるじゃない」
「…………」