南風之宮にて 2-9
宮の司が口を挟んだ。
「殿下。神宮衛士隊をお使い捨てください。命に換えましても囲みを破り、お二方の貴い御身をお落とし申し上げます」
「相手の数も配置もわからないのだろう。親衛隊と宮の衛士で突破できる保証はない。司の申し出はありがたいが、せめて詳細がわかるまでは無策に突っ込むのは避けたいな」
王子は妹姫に視線を移した。
「ここから最も近隣にいる軍隊は?」
「さらに南の国境警備軍と、ガレン公の騎士団でしょうか」
兄の問いに、王女はすらすらと答えた。
「国境警備は動かせない」
王子は出された名に少し考えてから、きっぱりと言った。
「ガレン公に救援を要請する」
「どうやってなさいますか。先程言われた通り、囲みを破るのも困難ですのに、ガレン公の城まで妨げられずに走り抜けられるとは……」
宮の司の不安げな言葉に、王子は間髪入れずに応じた。
「アハトかハヅル、どちらかを何とか結界から出す。どれだけ集めていたとしても、空を飛ぶものを止めることはできん。少数で夜闇にまぎれれば、囲みをすり抜けるのも可能だろう」
王子は首をめぐらせて妹姫とアハトを見た。
「山向こうの結界を出るまで、山道を馬で駆けて一時間弱。道でなく森を抜けるなら一時間は越えるな。結界の端からガレン公の城まで、全速で飛んでどれくらいかかる?」
問われてアハトは窓から空をにらんだ。黄昏空に浮かぶ雲の動きを見ながら答える。
「上空は強い向かい風なので……多く見積もって一時間」
「そこからガレン公がすぐに動いたとしても半日といったところか。厳しいが、それが最短だろうな」
王子は難しい顔をしつつも、長くは悩まなかった。
「アハト。どちらが出るか決めろ」
「俺が、」
相談もせずに決めようとしたアハトを、彼女は遮った。
「私が行く」
「だめだ。変化できないまま無防備に出るのは危険だ」
「それでなぜお前が行くという話になるんだ」
顔をしかめたハヅルに、アハトは答えずに続けた。
「俺がその役を引き受ける。お前が宮でお二人を守れ」
ハヅルは今度はあきれ顔でアハトを見た。
「危険と行ったのはお前だぞ。次期頭領の身をそんな危険にさらせるか」
「しかし」
「しかしじゃない。お前に何かあったら私がお祖父様に殺される」
煮え切らないアハトに、ハヅルはぴしゃりと言い放った。
アハトは小さく息を呑みこんだ。