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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 2-4


 王子はわざわざ木の下まで来て、二人のいる枝を見上げた。

「アハト! お前相手しろ。エイとはもう闘ってやらん!」

「断ります」

 アハトは身を起こしもせずあっさりと言い放った。
 王子が薄情者だの命令だのとわめいていたが、彼は完全に無視をきめこんでいる。
 ハヅルはさすがに心配になった。

「いいのか?」

 そう声をひそめると、

「いいんだ。あんなのをいちいち相手にしていられるか」

 彼はわざわざ王子に聞こえるように大声で応えた。
 あんなのとはなんだ、と王子が木の根元を蹴飛ばした。

「じゃあ、ハヅル! お前はどうだ?」

「えっ」

「お前はアハトと同じくらい強いとエナガに聞いたぞ。一度手合わせしてみたかったんだ」

 どう答えるべきか迷って、ハヅルは思わずアハトに視線を送った。
 彼は露骨に嫌そうな顔をしていた。

「ハヅルは姫に付くツミです。巻き込むのはやめてください」

「よし、あいつに許可とればいいんだな」

「そういうことでは、」

 ない、と身を起こしかけたアハトだったが、駆け寄る少年の姿に口を閉ざした。
 追いついてきたエイが、ため息をつきながら王子の落とした剣を差し出した。

「彼らの仕事じゃないんですよ……ほら、僕で我慢してください。今度は本気出しますから」

 王子は、差し出された剣の柄を、乱暴に引っ掴んで奪いとった。

「いやだ。お前とは絶交した」

「謝りますから。許してください」

 相変わらず無感動な調子ではあったが、困り果てているのは傍目にもよく伝わった。
 王子にもわかったのだろう。
 重ねて謝りにかかるエイに多少機嫌を直した風で、ぶつくさいいながらも親衛隊たちの待つ平地に向かって歩き出した。
 彼について立ち去りざま、エイは苦笑らしき表情をハヅルたちに向けた。


 やがて、先刻と同じ対戦試合が、親衛隊の合図とともに再開された。

「彼はなぜ、あれほど王子に頭が上がらないんだろうな。属国扱いにしたって身分は留学生なんだから、一応対等にしたっていいのに」

 ひとりごとのようなハヅルの言葉だったが、アハトは聞こえなかったのか反応を返さなかった。
 しばらく無言を通したのち、彼は呟いた。

「手加減が下手だな」

 エイのことだろう。
 確かにそうだ。うまい兵士は手加減を悟らせずに王子に花を持たせる術に長けているものだが、エイはどこからどう見ても力を抜いているのがわかる。
 いや、抜いているというよりは、緊張してがちがちである。
 刃を振りきらぬよう、踏み込みすぎぬよう……避けすぎぬよう、細心の注意を払っているのが遠目に明らかだ。

 彼の腕ならば、おそらく本気を出せば王子とは一合と打ち合わせる必要がない。
 王子も決して腕が悪いわけではないのだが、エイとは比較にもならなかった。


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