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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 2-3


「何しに来たんだ、王子は」

 ハヅルがそうひとりごちてしまうのも、無理からぬことだった。

「そう言うな」

 隣の枝で、幹にもたれたくつろいだ姿勢で観戦していたアハトが口を挟んだ。

「実はな。王都では、王が姫を疎んじて神殿に遣ってしまうつもりなのだと噂が立っている」

「え?」

 ハヅルは目を瞠った。
 王女についてあれこれ取りざたされないためにこうして王都を離れたというのに、それでは本末転倒だ。

「誰がどういう意図で流しているか知らんが。今は二人して王宮にいない方がいいのだろう」

「王子はその噂を払拭するために……?」

 信じられない思いで、ハヅルは王子に視線を映した。

 遠慮も何もあったものではない本気の剣さばきで、エイに打ちかかっては軽くいなされている。
 一度など隙を見て砂で目潰しという、王子様らしからぬ戦法を試したが、完全に動きを読んでいたエイに体ごとあっさりかわされた。

「……ちょっと信じられない」

「ああ見えていろいろ考えてはいるんだ、あの王子は」

 アハトは珍しく王子を持ち上げるような発言をした。
 本当に珍しかった。他人の評価には慎重なアハトが、唯一バカ呼ばわりしてはばからないのが王子だったのだ。
 むろん、口にするのはハヅルの前くらいのものだが。

「あっ」

 ハヅルは思わず声を上げて、腰を浮かせた。
 エイが突きを打ち込んだ王子の剣を払い落としたのだ。鈍い金属音をたてて剣が数メートル先まで滑っていく。
 王子は打ちかかって無防備な体勢のまま剣を失った。
 絶体絶命だ。はやし立てていた王女の親衛隊が、しんと静まり返った。
 だが、エイは王子を打ち据えも、剣をつきつけて降参を迫りもしなかった。

「だ、大丈夫ですか?」

 彼は電光石火の速度で剣を鞘に“納め”ながら、王子に駆け寄った。
 利き手を押さえてうずくまっていた王子は、自分の眼前で膝をついたエイの顔をまじまじと見つめると……無言のまま、エイにガコンと頭突きを食らわせた。

「〜〜〜!」

 エイは声にならない叫びを上げて、灰色の頭を抱え込んだ。

「なんてことするんですか!」

 涙目で抗議しようと頭を上げたエイが見たのは、自身も額を押さえて、涙目になっている王子の顔だった。

 エイはあきれた。

「何やってるんですか、あなたは……」

「こっちのセリフだ、石頭」

 王子は低い低い恨み節でそう言った。

「本気を出せと、何度言えばわかるんだ」

 エイは困惑したように身を退いた。

「本気……出してますよ」

「親友に嘘をついたな。絶交してやる」

「絶交はいいですけどね……」

「いいんだな! 本気だぞ」

「はあ…」

 曖昧なエイの返事に王子は勢いよく立ち上がると、彼に背を向けてずかずかと歩きだした。

 ハヅルたちのいる木に向かって。

「うわ、こっちに来た」


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