南風之宮にて 2-12
救援を要請する文面に王子と王女の印を捺した手紙を手早く作成するうちに、出発の準備は整っていた。
ハヅルが先に馬に乗り、エイが続こうとしたとき、
「エイ」
静かな呼びかけに、彼はふと足を止めた。
振り返った先で、アハトが彼を見つめていた。
「ハヅルを頼みます」
アハトは表面上はどうあれ、身を斬る思いでそう言った。
しかし何が正しいのかくらいは彼にもわかっていた。
ハヅルの語った優先順位は一つも間違えてはいなかった。逆の立場ならば同じことを言っただろう。
エイは少し驚いたように目を見開き、次いで、強く頷いた。
「わかった。任せて」
ハヅルに続いてエイは馬にうち跨った。
馬上の人となったハヅルは王家の兄妹を振り返った。
「無茶はしません。アハト」
ハヅルは幼なじみを見た。
「お二人は任せた。特に、姫には髪一筋も傷つけたら許さないからな」
そう念を押して、彼女は手綱を引いた。
アハトは表情もなく、その場に立ち尽くしていた。
「アハト」
王子がぽんと背中を叩いた。
「心配するな。エイとハヅルなら最強の組み合わせだ。それはお前が一番よくわかっているだろう」
確かに。アハトは思った。
親衛隊を何人つけるよりもエイ一人の方が戦力は上だろう。
ハヅルにしても、変化するまでもなく人間では相手にもなるまい。だが……
胸にさす、漠然とした不安の正体は何なのだろうか。
アハトは拳を握りしめて、長い間二人の去った方向を見つめていた。
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